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情報処理試験対策やIT業界への愚見・書評

プロジェクトマネージャー PMBOKに沿った論文対策!その②

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本記事は、プロジェクトマネージャー試験の論文対策の特集記事その②です。

その①は、1. 組織・コミュニケーション・ステークホルダマネジメント、2. タイムマネジメント、3. 品質マネジメント について取り上げています。

まだお読みでない方は、そちらも合わせてお読みください。

 

■目次■

4. コストマネジメント

コストマネジメントについて考えてみます。

前回記事タイムマネジメント・品質マネジメントと合わせ、QCDを構成する知識エリアです。

■概要■
出題頻度は中程度の知識エリアです。
実際のPJ管理の現場では、コストのマネジメントも重要ですが、最終ジャッジはプロジェクトオーナーに委ねられることが多いため、プロジェクトマネージャーとしての采配は実は小さい分野であると言えます。

プロジェクトマネージャーに求められることは、予算の管理(監視)ということとなります。
そのため、字数を書ききるには、管理ツールへの言及が必須となるでしょう。

出題例を見てみます。

出題の例:

  • 設問ア:プロジェクトの特徴およびコスト構成
  • 設問イ:コスト見積もり手法について
  • 設問ウ:プロジェクト遂行中のコストマネジメント

知識エリア特有の出題ポイントは赤字で示しています。

では、このエリアの出題ポイントを例に出しつつ、解説します。

 

■出題ポイント■
プロジェクト遂行中にどのようにコストをコントロールする(するつもり)かが問われます
具体的には、
  1. かかっているコストの把握手法
  2. 現時点での計画コストと差が生じていることを検知する手法
  3. 現行のままだとプロジェクト完了時の総コストがどうなるか予測する手法
を盛り込むのが大切です。
これらを管理するツールが必要でしょう。
典型的・代表的なものがEVMになります。
EVMは午後Iでも問われることが多いので、午後IIにも活用できればとても有効な知識となるでしょう。

 

次に論述ポイントです。

■論述ポイント■

初めに、EVMでどうコスト異常を検知したかの記述例を述べます。

コスト差異を検知するために、定点的にEACを観測していたが、15週目にさしかかると80人月に上昇した。プロジェクトとしてコスト超過するリスクが鮮明化したと言える。私は直ちに原因を調査した。

EAC・・・Estimate At Completion。完成時総コスト見積もり。

原因としては、担当者の工数不足、利用者の参画で微修正要望が頻発している等、様々考えられます。

対策としても、担当者の工数確保を上司に徹底してもらう、利用者の微修正要望を一覧化してもらい効率化を図る、などが考えられるでしょう。

ここでは、本知識エリアであるコストマネジメントによってどう分析・リカバリするかという論述例を述べます。

対策を施したため、今後は当初予定の生産性で進められることとなった。したがって、EACも今後は80人月から増加しないと考えられる。もともと想定していたバッファの4分の1を消費することになるが、顧客にも説明できる内容であるので、BAC 2 人月加えて80人月とした。

BAC・・・Budget At Completion。完成時総予算。

BACはEVM管理開始当初から策定されている予算であり、基本は変わりませんが、上述の対策では、バッファの1/4を消費することで、BACを増やして対応した、ということになります。

何をやったかは単純ですが、EVMとして記述する事が、マネジメントのアピールポイントにつながります。

 

5. プロジェクト統合・スコープマネジメント

プロジェクト統合マネジメントとスコープマネジメントについて記載します。

両者は論文を書く上では重複するところも多いので、まとめて説明します。

■概要■
出題頻度は中程度~やや低い知識エリアの一つです。
プロジェクト統合マネジメントとは様々な知識エリアのマネジメントを統合してプロジェクトを管理するというところから来ています。
そのため、多くの知識が必要ですが、逆に単独として問われることは少ない分野です。(原理的にはありえない)
一方、スコープマネジメントも、様々な状況を加味した上でスコープの定義や変更を決定することになります。
プロジェクト統合マネジメントと同様、単独の知識だけを問われることはありません。
この点で共通するので、両者はまとめて解説します

出題例をみてみましょう。

出題の例:

  • 設問ア:プロジェクトの概要
  • 設問イ:業務仕様の変更を考慮したプロジェクトの運営方法について
  • 設問ウ:評価と改善点

知識エリア特有の出題ポイントを赤字で示しています。

では、このエリアの出題ポイントを例に出しつつ、解説します。

 

■出題ポイント■
プロジェクトマネージャーは、そのプロジェクトをいかに管理し、無理な仕様要求を退けつつ、利用者の満足度を最大化する方策について考え続ける必要があります。
統合管理は、さまざまな状況を予測・加味して、プロジェクトの目的・スコープを決定・調整します。

出題例では、業務仕様の変更が発生する可能性を考慮しつつプロジェクトを進める上での注意点を問われています。
プロジェクトとしては、変更の可能性が低い方が望ましいので、なぜ変更可能性があるのにローンチするのか明確な説明が必要でしょう。
たとえば、社長の強い要望、〇周年のキャンペーンの一環である、などが考えられます。
こうした説明は設問アのプロジェクトの特徴として記載するのがよいでしょう。

次に論述ポイントです。

業務仕様の変更が発生する場合にどうするか、PMとしては予め決めておく必要があります。

変更が発生した場合にどういう基準で変更要求を受け入れるのか、予め整理しておく必要があるでしょう。

 

■論述ポイント■

業務仕様の変更の検討項目の例を挙げておきます。

①利用部門から見た変更の緊急性や度合い

②変更しないことによる不便さの度合い

③開発部門から見た開発期間や費用への影響の度合い

上記の観点から評価します。

 

実際に検討する具体的な機能について、検討の末、却下する例を挙げてみましょう。

次のような業務仕様の要望があった。

  • 利用者が毎回、自分の住所や電話番号を入力するのではなく、過去に一度登録した利用者は、次回からはそれを呼び出すだけにしたい。

予め作成していた変更受け入れ基準に従って検討した結果、次のようになった。

  • 変更による売り上げ向上:毎月60万円にのぼると試算された。
  • 変更によるコスト:利用者の情報をどこかに持たさなければならないので、セキュリティを加味した設備増強で、1,100万円程度の追加費用と、セキュリティ確保の運用コストが月額120万円増額すると試算された。

検討の結果、コストが売り上げを上回るため、変更の依頼を却下してもらった。

反対に、変更を受け入れる場合は、工数・費用・要員などの追加が必要となるので、しかるべき承認を取り付けるなど、PMとして必要な措置をとりましょう。

 

6. リスクマネジメント

リスクマネジメントは、実際のプロジェクト管理で最も重要な概念と言えるでしょう。

ただ、その本質はリスクのコントロールなので、システム監査技術者で問われることと表裏一体です。

PMにおけるリスクマネジメントとは、システム監査技術者が監査する対象の、被監査主体の活動であるととらえると分かりやすいでしょう。

システム監査技術者に関する対策記事はこちら。

>システム監査技術者 対策記事カテゴリ一覧

 

それでは概要から述べましょう。

■概要■
出題頻度は中程度~やや低い知識エリアです。

プロジェクトにおけるリスク要因とは、QCDへの影響要因に他ならないので、他の知識エリアへの言及も必然です。

また、登録セキスぺの知識を持っていれば、応用の利く分野でもあります。

 

リスクが存在しているからと言って、全てのリスクに十分な対策をとることはできません。

コストをはじめとする制約があるため、制約の中で実現可能な対策、最適な対策をとるには、個々のリスクに対する分析が不可欠です。

プロジェクトマネージャーとしては、リスク分析(定性的・定量的)、抽出したリスク要因に対して予防的対策と発生時対策を整理しておくことが必要です。

では、出題例です。

出題の例:

  • 設問ア:プロジェクトの特徴と目標
  • 設問イ:私が行ったリスク分析
  • 設問ウ:リスク対応計画について

知識エリア特有の出題ポイントを赤字で示しています。

では、出題ポイントをみてみましょう。

 

■出題ポイント■
適切なリスク管理をプロジェクトとして実施しているかが問われます。
論述対象とするリスク要因は、プロジェクトの背景として含めてもよいでしょう。たとえば、初めて取引することになる会社が保守を担当する、など。

あとは適切なリスク管理をしたかという点ですが、具体的にはほかの知識エリアと同様、事前の準備と実際の対応が問われます。

  • 事前にどのようなルールでリスクを管理するか
  • リスクが表面化したときにどう対応したか

これらを頭に入れて、論述に臨みましょう。

 

論述ポイントを述べます。

■論述ポイント■

まずはリスク管理手法の例です。

リスク洗い出しフェーズで特定したリスク毎に、発生確率と影響度をあらかじめ決めておいた基準に基づき3段階に分け、「リスク評価マトリックス表」に落とし込んだ。そして、そのセルによって、優先順位を3段階に分けた。

表形式で管理するのは、典型的な管理手法です。

次にリスク予防策と実際の対応を合わせて述べます。

予防的対策として、技法をレクチャーするとともに管理ツールも提供することとした。事前の教育で時間とコストがかかるが、予算内に収められそうであった。また、実際に生産性が一定の基準を下回った場合、要員を投入する計画とし、予算を組んでおいた。このことはプログラム製造工程において功を奏し、要員を1人投入することで、スケジュール影響なく工程を完遂できた。

 

7. 調達マネジメント

最後に、調達マネジメントです。

 

それでは概要から。

■概要■
出題頻度はやや低い知識エリアです。

「調達」はプロジェクト遂行の一要素なので、この部分だけが問われることはないとは思いますが、現実では重要なプロセスです。

プロマネの論文では、請負契約などで協力会社からの調達、という構図で作成することがほとんどと思われます。

※ハードやソフトのみの調達もあり得ますが、論文の主題になりにくい

請負契約の場合、どの工程なのかを明確にしたり、直接の指揮命令ができないことから納品物を検証するフェーズを設ける必要があります。

キーワードとしては、RFPをもとに取引先(調達先)を募る、というケースが多いと思われます。

出題例です。

出題の例:

  • 設問ア:プロジェクトの概要
  • 設問イ:協力会社の選定について
  • 設問ウ:評価と改善点

知識エリア特有の出題ポイントを赤字で示しています。

 

出題ポイントです。

■出題ポイント■

協力会社の選定には、評価項目を洗い出した後、各項目別に、最低限の水準を設定する必要があります。

これは、一定水準以上の企業を探すことが、第一義的な目的になるためです。


また、契約知識(請負か委託か)や選定のプロセス(RFP作成、修正、選定理由)が問われます。

こうした知識のアピールは、設問イの論述で含めていくのがよいでしょう。

 

論述ポイントです。

■論述ポイント■

ここでは、RFPの作り方に関する論述例を挙げておきます。

協力会社を選定するために、まずは私は、

①協力会社として必要な要件

②今回依頼する内容上必要な要件

をそれぞれ分けて明確にすることにした。そのうえで要件をRFPにまとめ、各項目の評価基準を設定し、最適な取引先を選定することにした。

実際に会社自体の要件として設定されるのは、設立年数、過去〇年内に赤字決算がないこと、従業員数、などが考えられます。

プロジェクトとして必要な要件は多岐に渡るので書ききれませんが、一般的には提案内容、新技術(特定技術)の採用有無、同業他社の実績、などが考えられます。

 

おわりに

いかがでしたでしょうか?

知識エリア別にみることで、論述のイメージを持つとともに、

横断的に知識エリアを覗いてみると、内実は、ノウハウが共通化されている部分も少なくありません。

特に、プロジェクトマネジメントでは、

プロジェクト立ち上げ時に予測して対応基準を明確にする

プロジェクト遂行時に発生する問題に対して、基準に基づき対応する

といった2点を分けて考えなければなりません。

具体的な論述、思いつきますか?

思いつかない、という方は、各知識エリアの論述ポイントをぜひもう一度参考にしてください。

 

また、論文試験に臨む際は、自分だけの"論文パーツ"を多く準備することが大切です。

以下の記事では、"論文パーツ"を整理して、どのような出題に対しても応用が利くための、"論文事例マップ"の作り方を説明しています。

合わせて、参考にしてください。

 

前回に引き続き、PMBOKに沿った論文対策を説明して参りました。

いかがでしたでしょうか?

今後も、こういった知識を説明してほしい、特集してほしい、という要望があれば、ぜひコメント欄や問い合わせフォームからご連絡ください。

 

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それでは、皆さんの合格の報告を楽しみにしています!

ではそれまで。

プロジェクトマネージャー PMBOKに沿った論文対策!その①

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本記事は、プロジェクトマネージャー試験の論文対策の特集記事です。

なんだかんだ、プロジェクトマネジメントの事実上の世界基準である、PMBOKの知識はあるに越したことないでしょう。

 

本記事では、PMの論文試験で問われていることを改めて分析し、PMBOKとの付き合い方と、知識エリア毎の回答ポイントをまとめることを目標としたいと思います。

 

■目次■

 

0. そもそもPMBOKとは

PMBOKとは、プロジェクトマネジメントの事実上の世界標準です。

IPAもプロジェクトマネジメントのシラバスPMBOKの知識を前提としている記載があります。

  • コストマネジメント・品質マネジメントなど、10の知識エリア
  • 「立ち上げ」「計画」「実行」「管理・監視」「終結」の 5 のプロセス
  • 「入力」「ツールと実装技法」「出力」の 3 のパート

に分かれ、10 × 5 × 3 の直方体をイメージして説明されることがあります。

 

本記事では、10 の知識エリアに着目して、PM試験の回答ポイントを整理します。

 

■最新のPMBOK状況について■
PMBOKは 2021 年 8 月に最新版である第 7 版がリリースされています。
第 7 版は、それまでの第 6 版とはかなり異なるリリースということで、注目されています。
最も単純化した変化でいうと、
ウォーターフォール」に適したPJ管理から、「アジャイル」に適したPJ管理に変わった
というところだと思います。
実際、ウォーターフォールアジャイルの切り替わりはもっと以前から叫ばれたこともあり、「やっと対応したか(遅いな)」という向きもあるようです。
反対に、「そう簡単にアジャイルへ変化できない」という意見も多く、PMBOKで対応されたとしても、数年程度で実際のPJ管理が変わるということは無いでしょう。

ただし、IPAPMBOK をこれまで意識してきたので、PM 試験の様変わりが数年以内に発生する、ということはありそうです。
もしかすると、旧版のPMBOKの知識エリアやプロセスが通用しない問題も出題されるかもしれません。
実際、最新版である第 7 版では、先に述べた 10 × 5 × 3 の直方体モデルは言及されていません

本ブログ(記事)では、10 の知識エリアに沿ったプロセスが、条件を満たせば今後のアジャイル開発モデルにおいても活用できる、という立場に立ち、ノウハウを整理して説明します。

1. 組織・コミュニケーション・ステークホルダマネジメント

組織マネジメント、コミュニケーションマネジメント、ステークホルダマネジメントについてまず考えてみましょう。

■概要■
最も出題頻度の多い知識エリアです。
プロジェクトマネージャーとして、人的な管理は最も能動的に手腕を奮いやすい分野と考えられるためです。
組織・コミュニケーション・ステークホルダは、いずれも人的管理であり、境目も曖昧になることが多いので、まとめて解説します。

では、どういった観点が出題されることが多いか、過去問を見ながら考えてみましょう。

出題の例①:

  • 設問ア:プロジェクトの概要
  • 設問イ:プロジェクト遂行中のチームの再編成について
  • 設問ウ:評価と改善点

出題の例②:

  • 設問ア:プロジェクトの概要
  • 設問イ:交渉による問題解決について
  • 設問ウ:合意に至った解決策

知識エリア特有の出題ポイントを赤字で示しています。

では、このエリアの出題ポイントを例に出しつつ、解説します。

 

■出題ポイント■
例①の場合:
プロジェクト遂行中に発生する問題に対応するのがプロジェクトマネージャーの役割です。
例①で問われていることは、プロジェクト遂行中に「チームの再編成」によって解決したプロジェクトマネジメントです。
本来、問題を解決できるならば、「チームの再編成」は最初に検討されるべきものです。
組織・コミュニケーションマネジメントによって、問題解決したプロジェクトを論述として用意しておきましょう。
例②の場合:
プロジェクト中に発生した問題を解決するために、ステークホルダとコミュニケーションをとるケースです。
実際にもよくあるマネジメントであると思います。
例②のポイントは、交渉によって解決する問題というのが、問題の責任について、双方に非のない問題か、非のある問題になります。
(さもなくば、法的手段や裁判による解決となるためです。)
こうした出題ポイントに備えて、解決すべき問題というのは、あらかじめ想定しておくのがよいでしょう。
例えば、要員であるチームリーダX君が、対象を崩し、プロジェクトからやむなく離脱することになった、というようなケースが考えられます。

出題ポイントに対して、どのように論述すればよいかを次のようにまとめます。

 

■論述ポイント■
例①の場合:
チームの再編成を行ったという論述でポイントとなるのは、次の2点です。
  • 原因分析(ツール、プロセス、要因)をどう行ったか
  • チームの理解を得るために慎重に取り組んだか
さらに、改善効果を評価するため、期待値がどうであるか、どうやって評価(監視)するか、プロジェクトの最終QCDがどうなるか、といった見通しも合わせて論述するとよいでしょう。
例②の場合:
交渉によってプロジェクトマネージャーは、ステークホルダを説得して問題解決にこぎつける必要があります。
この場合、いかに説得力を持って交渉するかが重要です。
一例として次の論述例を挙げておきます。

私は、今回のプロジェクトを立案する段階から、リスクマネジメントはしっかりと行っていたことを主張した。合意した計画に、X 社も弊社も落ち度はなかったという点である。そのリスク管理表では、主要メンバの不測の事態による離脱という項目があり、その場合は、双方協議のうえ、対策を施すとしている。当時の議事録にも、主要メンバの病気や怪我、退職による離脱の場合、それを見越して余力を持った要員計画を立てるのは、コスト面から厳しいという記録が残っている。

上述の例のように、プロジェクトの立ち上げの段階での想定していた範囲であるというアピールをすることで、冷静な交渉ができるようになります。
具体的な解決策は、段階リリース、代替要員の補充などが考えられるでしょう。

 

2. タイム(スケジュール)マネジメント

タイム(スケジュール)マネジメントについて考えます。

「線表」というイメージがある通り、プロジェクトマネジメントの最も主要な要素の一つです。

■概要■
出題頻度の多い知識エリアの一つです。
進捗管理」という言葉で表され、具体的なノウハウやマネジメント手法が最も蓄積・共有されている分野だと思います。
ポイントとしては、
  1. 進捗管理手法はプロジェクト立ち上げ時に明らかにすること
  2. 進捗遅れの兆候を発見する仕組みを盛り込むこと
  3. 実際に進捗遅れが生じた時の対策を講じること
です。
3. は対策なので、優れたプロジェクトマネージャーに求められるのは、「未然に防ぐ」ための手法である 1. と 2. をいかに計画に含めるか、といえるでしょう。

では、同様に、どういった観点が出題されることが多いか、過去問を見ながら考えてみましょう。

出題の例:

  • 設問ア:プロジェクトの特徴と進捗管理の方法について
  • 設問イ:進捗管理の予防措置について
  • 設問ウ:進捗遅延対策

知識エリア特有の出題ポイントを赤字で示しています。

では、このエリアの出題ポイントを例に出しつつ、解説します。

 

■出題ポイント■
なぜ進捗管理することが重要なのかが問われます。
よって、当該アクティビティが、いかに重要であり、プロジェクト全体の進捗にも影響を与えるようなものであることを、「設問ア:プロジェクトの特徴」の中で論述しておくことがよいでしょう。

また、進捗遅れの兆候を早期に把握できる仕組みを講じていたか、が問われます。
これがないと、実際の進捗遅れの発生に対しただ対応するだけとなり、これでは管理(コントロール)にならないためです。
たとえば、要件定義フェーズの場合(どのフェーズか明記するのも重要)、次のような仕組みが考えられます。

要件確定項目(合意済みの機能数)の達成割合(全体機能数と合意済み機能数の比率)、合意できていない機能数とその理由をチェックすることにした。その狙いとしては、PM自らがその品質をチェックできるからである。また、全体会議の場で、要件定義フェーズを担当するメンバ間で相互チェックしてもらい、品質向上と要員教育の狙いもあった。

次に論述ポイントを述べます。

出題ポイントで述べた通り、進捗遅れを未然に防ぐ仕組みを講じているので、

  • 実際に兆候が発生した場合にどのように対応するか
  • 実際に進捗遅れが発生した場合にどのように対応するか

について論文を展開しましょう。

 

■論述ポイント■

兆校を把握したあと、進捗遅れの予防措置を講じる方法の例を述べます。

状況を確認して、原因を特定する。その原因が、

①ユーザ側担当者のスケジュールが確保できないことに起因する場合、私がユーザ側の責任者と話をして、ユーザ側で調整してもらい、参画を確保してもらう。

②その原因が、ユーザ側で結論が出せないことに起因する場合、ユーザ側経営者と、スコープの変更を含めて私が交渉する。

③その原因が、弊社担当者側のスキルの問題の場合、プロジェクト内の他のメンバがリカバリする。

そのために、日ごろから情報を共有して全体作業を把握できるようにしておく。

実際に進捗遅れが発生してしまった場合の対応方法の例を述べます。

ユーザ側の仕様決定を担う担当者の一人が、急遽別の業務の作業を命じられ工数が不足していることが原因であった。私は、ユーザ側の責任者に状況を説明し、次のような調整をしてもらおうと申し出た。

①ユーザ側の当該担当者の部下に、一部、仕様確定の権限を委譲してもらう

②ひとり要員を追加してもらう。

③担当者の参加日程と、所要時間を弊社で算出するので、その所要時間の徹底管理を責任者に実施してもらう

 

3. 品質マネジメント

品質マネジメントについて考えます。

タイムマネジメントに比べると、品質は定義も管理手法も多岐にわたるため、論述しきるにはコツと経験が必要です。

■概要■
出題頻度のやや多い知識エリアです。

一般的に、与えられた予算や納期の内訳として、品質確保に要する部分だけを独立して管理することは困難です。

外部設計書のレビュー、結合テストシステムテストあたりなら可能ですが、単体テストやプログラム仕様書のレビューは、しばしばプログラム開発工程に融合されてしまうからです。

そこで、品質を作りこむためのプロセスと品質を確認するためのプロセスを開発標準として定め、その活動計画を作成することがあるべき姿となります。

では、出題例を見てみましょう。

出題の例:

  • 設問ア:プロジェクトの概要
  • 設問イ:品質を確保するための活動計画について
  • 設問ウ:評価と改善点

知識エリア特有の出題ポイントを赤字で示しています。

では、このエリアの出題ポイントを例に出しつつ、解説します。

 

■出題ポイント■
なぜ品質管理が重要なのかが問われます。
背景として、与えられた予算や納期の達成の難易度を説明しましょう。

プロジェクトマネージャーとしては、いかなる状況のプロジェクトであろうとも、地に足のついた遂行計画を立案・管理することが求められます。

品質が重要なプロジェクトならば、プロジェクト憲章などにおいて、プロジェクトメンバーに対し、品質目標と制約条件(予算や納期)の両立を目指すことを納得させ、全員が意識するような工夫が必要でしょう。

そのうえで、実際にどうやって品質を維持するのか施策を説明する必要があります。

次に論述ポイントを述べます。

制約下において、いかに品質向上を維持するかという点を、臨場感もって論述しましょう。

 

■論述ポイント■

制約下における品質向上を追求する姿勢を示す必要があります。

次のように例文を挙げます。

この例は、プロジェクトの各フェーズにおいて品質を維持しつつ工数を最小化することを意図したものになります。

外部設計書のレビュー、単体テスト(の結果確認)、結合テスト(の結果確認)に関しては、技術に精通した外注メンバを中心に実施することとした。

逆にシステムテストは、現有メンバで実施する。

こうすることによって、各自、自分の強みを品質向上に活かせることになる。

上述の例は、一つの組織マネジメントと言い換えることもできるでしょう。

次に、よくあるイメージである「品質=テストの充実度」という経験則に基づいた論述例を挙げておきます。
この例も、メンバの調整によって品質向上を図る施策となります。

すべてのメンバが、成功して終結できるためのテスト計画を立案できるとは限らない。そこで、ベテランのメンバを中心にプロジェクト内に、品質向上チームを設けた。各テストを実施する前に、徹底的にテスト計画書のレビューを行うことが目的である。

上述の論述例のほか、"設計標準" を作りこむ、というのも典型的な品質管理施策となります。

 

つづきます

長くなりましたので、続きは次回といたします。

次回は、残りの知識エリアである、

  • コストマネジメント
  • 統合・スコープマネジメント
  • リスクマネジメント
  • 調達マネジメント

について解説して参ります。

 

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プロジェクトマネージャーは、難関ですがその分合格時に肩書に付与できることの意味も大きい資格だと個人的に思います。

読者の皆さんの合格の報告を楽しみにしています!

 

ではそれまで。

高度情報処理試験対策 1か月前から取り組むべき4点のこと(令和3年秋版)

令和3年度の秋季情報処理試験(10/10)まで残り約1か月前となりました。

勉強をコツコツと進めている方としては、この時期、ラストスパートに入り、万全を期す頃でしょう。

心理的には逆で、まさにこの「ラストスパート頼み」となっている方もいるでしょう。

 

では、何に取り組めばよいのでしょうか?

本記事でも、さきに結論を書きましょう。

 

■1か月前から取り組むべき4点■
  • 1. まずは学習状況を振り返ること
  • 2. 残りの時間を可視化すること
  • 3. 重点対策項目を決めること。過去問は複数回検討すること
  • 4. 記述対策はプロセス整備を。論文対策は型化を徹底すること

 

本記事では、合格するために、上記4点について詳しく書いて参ります。

 

[目次]

 

なお、今期(令和3年秋)の2か月前の記事については、下記を参考ください。

 

■2か月前にやるべきこと5点■
2か月前(8月)に、試験受験に向けてやるべきこと・心構えをまとめています。
ポイントは、
気構え/参考書/事例集 です。

>秋季 高度情報処理試験 2か月前から取り組むべき5点のこと 

 

コロナ禍における試験開催

デルタ株・ミュー株といった変異株が紙面を賑わしていますが、今期は予定通り試験開催されるのでしょうか?

前期(令和3年度 春)、前々期(令和2年度 秋)は試験開催されており、感染症対策ノウハウもある程度たまっていることが考えられます。

 

確実なところは分かりませんが、余程のアウトブレイクが発生しない限りは、開催されるのではないかと思います。

今後も、コロナ禍の動向やワクチンの接種状況、国や自治体の勧告などに注目してください。

 

1. まずは学習状況の振り返りを

さて、まずはご自身の積み上げてきた学習状況を振り返ることから始めましょう。

1か月前となった現時点において、計画通り学習を進められましたか?

期待通りでしたか? 期待以上でしたか?

まったく勉強できなかった、という方もいるでしょう。

まずは、自分の現況を直視することから始めましょう。

 

これまで、1週間に1時間しか勉強できなかった人が、1カ月前になったからと言って、突然100倍勉強できるはずがありません。

残り1カ月になったら、ある程度勉強時間を確保するつもりであったとします。

だとしても、自由な時間の少ない社会人であれば、せいぜい1.5倍~3倍くらいの時間しか確保できない、と理解するべきでしょう。

 

このことを念頭に置いて、では、残り1か月でどうするか? を一緒に考えてみましょう。

 

  

■1つ目のポイント■
1か月前になったからと言って、突然勉強時間は確保できない。
せいぜい、それまでの勉強時間の1.5倍~3倍くらいのつもりで、残りの時間の過ごし方を考えよう。

 

2. 残りの時間を可視化する

何事もそうですが、目的とする時点までの残り時間は可視化しておくことが重要です。

プロジェクトマネジメントの基本ですね。

 

土日に勉強する時間を設けている、としましょう。

すると、残りの週末の数は、試験当日を含む週を除くと、4回しかありません。

 

9/11, 12
9/18, 19
9/25, 26
10/2, 3
10/9, 10(当日)

 

仮に、1回の週末で1年分の過去問を解いたとしても、4年分しか解けないことになります。

週末を勉強の中心に据えていた方からすれば、かなり短い実感を持たれたのではないでしょうか?

 

この上で、何を自分の時間として重視して勉強するかが大切です。

 

■2つ目のポイント■
残り時間を可視化しよう。
漫然と時間を過ごすことを、これだけで防ぐ効果がある。

 

3. やるべきことを決める

では、何を残りの時間でやるべきでしょうか?

ここでも、これまでの自分の積み上げた対策を振り返り、より強化が必要なところに集中的に時間を割り振りましょう

午前問題でしょうか? 午後問題でしょうか?

足きりのことを考えると、午前問題もおろそかにできないでしょう。

一方、中心的なスキルセットとして問われるところは午後(記述・論述)であると考えられるので、午後対策を重視するという考え方もあるでしょう。

 

  • これまで、午後対策を中心にしていたならば、午前対策の比重も上げて、間違っても足切りを受けないようにしてください。
  • 反対に、午前対策を十分にやってきたなら、午後対策を中心に据えた学習計画を立ててこなしていくことが必要でしょう。

 

より強化が必要なところが分からない、という方は、やはり過去問に触れておくことがよいでしょう。

過去問も解きっぱなしにするのではなく、解いて、採点して、参考書で検討することが重要です。

 

私のおススメは、過去問を解いた後、すぐに自己採点して、検討し、時間を空けて改めて検討することです。

時間を空けて再検討することで、自分の中に複数の視座を設けることができるようになります。

 

仮に、何度検討しても納得できない問題があったとしたら、残りの時間も少ないので、諦めるか、丸暗記して臨むと割り切ることも必要でしょう。

 

■3つ目のポイント■
残り時間を午前対策に使うか・午後対策に使うか、有効な配分を決めよう。
過去問は、解きっぱなしにするのではなく、何度も回答プロセスを検討し、自分の中の「考え方」を更新すること。
何度検討しても納得できなければ、諦めるまたは丸暗記して臨むという割り切りも大切。

 

4. 記述対策・論文対策の考え方

ここから先に述べることは一般的なことです。

 

これはどの高度試験にも言えることですが、記述式の試験の場合、正答へのたどり着くプロセスを自分のものにしていくことで、合格に近づくことができます。

 

  • たとえば、STであれば、課題が必ず問題中に登場します。
  • AUであれば、リスクとそのコントロール方法が必ず登場します。

 

このように、そのパターン(正当となるキーワードをどうやって記述するか)を習得していくことを、残り1か月でやりたいですね。

 

次に論述式の試験ですが、区分を問わず、設問アと設問ウは比較的定型度が高いことが多いです。

特に設問アは、丸々自分が用意してきた論文のパーツが使えることがあります。

設問ウは、問われていなくとも、自身の活動に対する評価や反省を入れることで、ある程度の論旨を展開することができます。

 

問題は設問イですね。

検討しなければならない条件」というのは、設問によって異なるので、やはり、過去、どういった点が問われているかを調べておくのがよさそうです。

 

たとえば、組織間の利害調整、とか。業界の状況、とか。技術動向、とか。

そういった条件ごとに、自分の論旨を展開できる論文パーツを準備しておくとよいでしょうね。

 

 

■4つ目のポイント■
記述対策は、正答へのプロセスを残り1か月で自分のものにする。
論文対策は、設問アとウは型化を仕上げる感覚で準備し、設問イは過去問から問われる論点を調べて可能な限り論文パーツを準備しておこう。

 

勉強スケジュールモデル

最後に、ちょっと忙しい方向けに、残りの勉強スケジュールのモデルを出しておきます。

 

  • 9/11, 12 過去問1年分解き、自己採点
  • 9/18, 19 前週の自己採点と再検討
  • 9/25, 26 過去問1年分解き、自己採点
  • 10/2, 3 前週の自己採点と再検討
  • 10/9, 10(当日)

 

上記ですと、結局2年分しか過去問は解けません。 

ちょっと心もとないですが、やみくもに勉強するよりも力がつくと思います。

何をしたらいいか分からなくなっている方は、是非やってみてください。

 

まとめ

それでは、情報処理試験の高度試験にどのように準備するか、本記事で紹介したことを改めてまとめておきましょう。

 

■まとめ■
  • 1. まずは学習状況を振り返ること
  • 2. 残りの時間を可視化すること
  • 3. 重点対策項目を決めること。過去問は複数回検討すること
  • 4. 記述対策はプロセス整備を。論文対策は型化を徹底すること

 

1か月前のこのタイミングだからこそ、改めて自身の振り返りとしても活用してみてください。

参考までに、前回(令和3年 春試験)の試験対策記事も、余裕があれば目を通してみてください。

 

■高度情報処理試験対策 40日前にやるべきこと■

同様のポイントをまとめていることが、分かると思います。

>振り返り・重点対策・学習スケジュールモデルについて(残40日!)

 

なお、私は今期、秋試験は受験しません。

情報処理試験のフルコンプリートを目指していますが、前々回にシステム監査技術者に合格したことで、秋試験では受験する科目がなくなってしまったためです。

なお、その時の記事は以下を参照ください。

 

■システム監査技術者 合格記事■

 

今期は、受験される方のサポートに回りたいと思っています。

以下の私のツイートにもあるように、無料相談サービスも立ち上げています。

論文添削や記述式の相談にご興味のある方、ぜひ活用してみてください。

では、合格を目指して共に頑張りましょう。

 

本ブログでは、高度情報処理試験の、合格に向けたサポート記事を充実していきます。

「読者になる」ボタンで、ブログの更新時に通知されますので、ご検討ください。

 

ではそれまで。 

高度情報処理試験対策 2か月前から取り組むべき5点のこと(令和3年秋版)

更新:2021年12月27日

令和3年度の秋季情報処理試験(10/10)まで残り55日となりました。

約2か月前。直前でも無いけど、半年・一年以上の長期学習計画を立てるほどの時間も無いこの時期。

 

何に取り組めばよいのでしょうか?

さきに結論を書きましょう。

 

■2か月前から取り組むべき5点■
  • 1. 気構え:長い試験時間に耐えられる覚悟・体調管理
  • 2. 午前II対策:過去問を解くこと
  • 3. 午後対策(記述対策):解説の多い参考書で準備
  • 4. 午後対策(論文対策):事例集で自分なりの表現を掴む
  • 5. 気構え:SNSでモチベーション維持

 

本記事では、合格するために、上記5点について詳しく書いて参ります。

 

[目次]

 

なお、今期(令和3年秋)のスタートダッシュ記事については、下記を参考ください。

 

■スタートダッシュ記事■
今期の始動時(6月)に、試験受験に向けて必要な情報・心構えをまとめています。
ポイントは、
情報処理試験のメリット/統計情報/試験の作成プロセス です。

>秋季 情報処理試験 受験に向けて モチベーションをアップしよう 

 

コロナ禍における試験開催

コロナ禍に入り久しいですが、前期(令和3年度 春)、前々期(令和2年度 秋)は試験開催されました。

3期前(令和2年度 春)は、コロナ禍を理由に開催が中止されています。

中止となったのは、この時だけです。

 

今期が予定通り開催されるかは、確実なところは分かりません。

ただ、前期と前々期が開催されたこと、ワクチンなどの接種状況が進んでいることから、余程のアウトブレイクが発生しない限りは、開催されるのではないかと思います。

 

今期も、コロナ禍の動向やワクチンの接種状況、国や自治体の勧告などに注目してください。

 

1. 高度情報処理試験についておさらい

さて、まずは試験そのものについておさらいをしましょう。

「レベル4」と言われる高度情報処理試験は、9区分があります。

下の図を見ながら確認してください。

f:id:createrolerole:20210203092804p:plain

IPA 試験区分一覧 H29春以降

中央ピンク色で表現されている試験9区分が高度試験と呼ばれています。

9区分のうち、ST、SA、PM、SM、AUの5区分が午後IIに論文試験があります。

一方、NW、DB、ES、SCは午後IIは午後Iと同様、記述試験です(午後Iよりも分量の多い記述試験という感じ)。

9区分の試験区分は同一です。

  • 午前I:50分
  • 午前II:40分
  • 午後I:90分
  • 午後II:120分

試験終了は16時30分になります。他の試験区分の中でも試験時間が長いことが特徴です。

このことから、長い試験時間に耐えれることが必要です。

初めて受験される方は、一度は自分で一日を通して模擬試験をしてみましょう。

 

(参考)IPAの試験区分一覧

www.jitec.ipa.go.jp

  

■1つ目のポイント■
高度の試験区分は、試験時間が長い。
慣れておくために、時間を測って過去問を解いておこう。

 

2. 過去問はやはり重要

情報処理試験は過去問とその回答を公開しています。

 

特に午前の試験は選択式で、かつ過去問の採用率が高いので、3~4年分の過去問を頭に入れておくだけで合格できます

短絡的な考え方かもしれませんが、合格だけを目的に考えるなら、出題された単語や意味などを覚えなくても、問題文と回答のセットだけを覚えれば十分です。

 

一方、午後の試験(記述式・論述式)は同じ問題は出ないので、過去問だけを解いて合格しようとするのは、膨大な時間をかける必要があるという意味で、無理があるでしょう。

IPAでは過去問の解答は公開しても、解説までは公開しないので、ここは参考書に頼るのがよいと思います。

 

■2つ目のポイント■
過去問を解こう。
極論、午前問題は、それだけで対策になる。

 

3. 記述対策の参考書

記述対策に求めるポイントは、次の1点です。

解説が充実していること

どの区分にしろ、初めから試験センターの定義する「正解」を記述する事はできないでしょう。

自分の考え方のクセを意識して、「正解」に合わせる行為が必要です。

そこで必要なものが、「解説の充実度」です。

 

ここからは、私自身の体験も踏まえて、参考書について評価してみましょう。

iTEC 重点対策

前回、ITストラテジストに合格した私は、記述対策にiTECの『重点対策』を用意しました。

 

午前II、午後I、午後IIまですべてこれ1冊でカバーしているところが強みです。

紙面の配分も同等か、しいて言うならば午後II対策の分量が少ないと言えるかもしれません。

記述式の対策は解説が充実していることが重要なので、その観点で評価してみますと、

  • 200ページ超の分量
  • 段階的に仕上げることができる仕組み(テクニック、作成例、実践、解説と節立てされている)
  • とりあげている過去問(解説)16問(うち3問が組込みシステム)

と、かなり充実していると言えそうです。(2020年版の評価です)

 

ただ、解説自体に納得がいかないものも一部でありました。

たとえば、解説文が、問題文の引用や焼き直しに終始しており、「なぜその回答になるのか?」という論理が足りないと感じるものがありました。

その正答ならば、問題文のこの部分を引用しないのはなぜ?といったような疑問がわくものもありました。

 

ただ、私は一発で合格できたので、上に指摘した以外の要素は問題ないと思います。

 

翔泳社 情報処理教科書

前々回合格できたシステム監査技術者の際は、翔泳社の『情報処理教科書』で準備しました。

最新版ではなく、2014年版を中古で購入しました。

 

比較的、午後対策に特化しています。

全体的な章立てとしては、

  • 監査の計画
  • 監査の実施
  • 監査の報告

などいくつかの体系に分けられており、章ごとに知識・午後I対策・午後II対策ができるようになっています。

章の体系からして、合格に向けた対策がとれることと同時に、各監査のフェーズにおける専門知識を習得できるようになっており、実際の監査業務に役立てやすい構成になっていると感じます。

特に、第1章に書かれている「監査とは」の部分は個人的に必見です。

なぜ監査が必要か、監査はどうあるべきで、実務を踏まえてどうアジャストする必要があるかなどといった観点が含まれていて、実体験を通じておぼろげながら理解できているという人でも、よりクリアに理解しなおすことができます。

なお、本書は2014年版でしたが、試験体系も、ましてや監査の勘所といった点はあまり変わりません。(何しろ監査という概念そのものは、ITが登場する前からあったので)

ですので、対策本を検討する際は、最新のものに固執せず、中古で安く仕入れるという考え方もアリだと思います。

 

■3つ目のポイント■
記述対策は参考書に頼ろう。
何冊かで迷ったら、「解説の充実度」があるものを選ぼう。

 

4. 論述対策の参考書

本記事では1冊、参考書のシリーズを紹介します。

 

論文のある試験区分では『合格論文の書き方・事例集』というシリーズが出ており、その名の通り、論文を書く上での言い回しや論旨展開の事例集として活用できます。

私の場合、他の論文系の試験区分を合格した際も、このシリーズで準備をしました。

論文で、どのように表現するべきか迷ったとき、事例が豊富にあると、参考にしたり取捨選択して自分のものにできたりします。

 

また、論文対策においては、単に例文を読むだけではダメで、自分なりの表現に"昇華"させる必要があります。

このために参考にしていただきたい本ブログのオリジナルのフレームワークが、「論文事例マップ」です。

別記事にまとめていますので、合わせてご参考ください。

 

■論文事例マップの作り方■
ITストラテジストを例に、論旨展開の"型化"を目指すフレームワークの紹介記事です。

studyrolerole.hatenablog.jp

 

記述対策・論文対策と参考書を紹介しましたが、自分との相性もあると思いますので、時間が許せば、書店で手にとって比較するのがよいと思います。

ただ、ここに挙げたものに限らず、目的が合格にあるという点ではどれも同じなので、まずは1冊選んでとにかく沿って学習してみる(その方が参考書を比較検討する時間を削って勉強にあてられる)、という考え方もあるかもしれません。

 

■4つ目のポイント■
論文対策には参考書などで事例集めを。
論旨展開は、「論文事例マップ」などの活用で自分なりの"型化"を目指そう。

 

5. SNSでモチベーションアップ

モチベーション管理のために、SNSで受験する方の状況をチェックするのもよいと思います。

たとえばtwittertwitterをやっていなくとも、リアルタイム検索でキーワードを登録しておけば、通知を受け取れるアプリがあります。

promo-search.yahoo.co.jp

キーワードには、情報処理試験や、受ける試験区分の試験名を登録しておくとよいでしょう。

尚、私もtwitterはやっていますので、よろしければフォローもご検討ください。

ここには書けないような日常のTIPSや細かい記事ネタもつぶやいていますので、本ブログの先取りになるかもしれません。

 

 

■5つ目のポイント■
勉強の中だるみを防ぐため、SNSでモチベーションを維持しよう。

 

まとめ

それでは、情報処理試験の高度試験にどのように準備するか、本記事で紹介したことを改めてまとめておきましょう。

 

■まとめ■
  • 1. 気構え:長い試験時間に耐えられる覚悟・体調管理
  • 2. 午前II対策:過去問を解くこと
  • 3. 午後対策(記述対策):解説の多い参考書で準備
  • 4. 午後対策(論文対策):事例集で自分なりの表現を掴む
  • 5. 気構え:SNSでモチベーション維持

 

上記のことは繰り返し申し上げていることですが、2か月前のこのタイミングだからこそ、改めて自身の振り返りにも活用してみてください。

参考までに、前回(令和3年 春試験)の試験対策記事も、余裕があれば目を通してみてください。

 

■高度情報処理試験対策 70日前にやるべきこと■

同様のポイントをまとめていることが、分かると思います。

>勉強法・参考書・気構えについて(残70日!)

 

なお、私は今期、秋試験は受験しません。

情報処理試験のフルコンプリートを目指していますが、前々回にシステム監査技術者に合格したことで、秋試験では受験する科目がなくなってしまったためです。

なお、その時の記事は以下を参照ください。

 

■システム監査技術者 合格記事■

 

今期は、受験される方のサポートに回りたいと思っています。

以下の私のツイートにもあるように、無料相談サービスも立ち上げています。

論文添削や記述式の相談にご興味のある方、ぜひ活用してみてください。

では、合格を目指して共に頑張りましょう。

 

本ブログでは、高度情報処理試験の、合格に向けたサポート記事を充実していきます。

「読者になる」ボタンで、ブログの更新時に通知されますので、ご検討ください。

 

ではそれまで。 

ITストラテジスト 論文事例マップの作り方 大公開!

本記事は、ITストラテジスト試験の論文対策の特集記事です。

名付けて、「論文事例マップ」!

設問で問われている「問い」と、論文の回答表現「答え」をマッピングすることで、

どのような形式で問われても回答を紡げるフレームワークです。

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論文事例マップは、このような図です。拡大してみてください。

本記事では、ITストラテジストで問われていることを改めて分析し、

論文事例マップの見方・作り方、

論文事例マップのITストラテジストならではのポイントについて解説します。

 

1. 論文で問われていることの再確認

まずは、論文で問われていることを再確認しましょう。

 

なお、ITストラテジストの論文対策の全般的なところは、

下記の記事でまとめていますので、あわせてご確認ください。

>ITストラテジストの合格秘訣まとめ② 3.論文対策

 

1-1. 設問アで問われていること

過去数年~10数年を遡って、かいつまんでまとめてみました。

設問アで問われていること 

・経営や業界を取り巻く背景

・経営課題

・事業目標、事業戦略、事業概要、事業施策

・システム化計画

 

上記がベースで、年によっては、+αで問われることがあります。

たとえば、

・関連するステークホルダ

・リスク

・採用予定の新技術 

といったところですね。

これらは、何が問われるかは事前に分からない、各年の "カラー" と言ってよいでしょう。 

 

1-2. 設問イで問われていること

同様にまとめます。

設問イで問われていること 

・個別システム化構想の概要

・システム化計画

・情報システム概要

・推進体制

・効果/リスクの分析

・フィット&ギャップの分析

 

「システム化計画」など、システムそのものの要素は、

設問アで問われることもあれば、

設問イで問われることもあるようです。

 

マネジメント系に広げるかテクニカル系に広げるかで分かれそうです。

ご自身が得意な方を聞かれている問を選ぶのが良いでしょう。

 

推進体制やステークホルダが聞かれていればマネジメント系、

システムそのものの概要や採用技術が聞かれていればテクニカル系、

というように、ざっくりと見極めて選びましょう。

 

1-3. 設問ウで問われていること

同様にまとめます。

設問ウで問われていること 

・経営層への説明

・経営層からの評価

・投資効果を高める工夫

・リスクマネジメントの課題

・組織間の対立解消

・事業部門への支援内容

 

特に、ITストラテジストは経営との橋渡しとなる役割なので、

設問ウで経営陣を登場させる設問が多いようです。

 

設問で求められていなくても、経営陣を登場させると、

採点者に「分かってるな」と思わせることができます。

 

なお、経営陣との関係や、ITストラテジストの立場については、

以下記事も参照にしてください。

>ITストラテジストの合格秘訣まとめ② - 3-1. 求められる姿勢

 

2. 論文事例マップの見方

 

2-1. 全体

さて、いよいよ論文事例マップの見方を説明しましょう。

f:id:createrolerole:20210803144914p:plain

論文事例マップ。拡大してみてください。

まずは図の下側に書かれている矢印に着目してください。

各設問ア・イ・ウで問われていることが図のどこにあるか、

また左から右に向かって論述されてゆくイメージがつかめると思います。

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論文事例マップ下部分。各設問が左から右に流れるイメージ。

次に、緑の楕円に着目してください。

これが、対応する設問で「問われていること」となります。

さらに、回答としての論述文案が各楕円の下に書かれています。

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各楕円が「問われていること」で、関連づけて論述の流れをつかむ。

回答としての論述文例は、ご自身で使いやすい文を

持ってきてあてはめ、整理するとよいでしょう。

 

また、点線の矢印は、このように論述を進めれば

論理的でよい流れを作ることができるというものです。

 

これが唯一の正解ではないことに注意してください。

あくまで、設問に問われていることに忠実に答える、

という基本は外さないようにしましょう。

 

2-2. 活用のポイント

 

ここで、ポイントは、

設問アでも設問イでも問われることがある

設問イでも設問ウでも問われることがある

ということがある点です。

 

たとえば、「システム化計画」は、年度や問によって、

設問アでもイでも問われてきました。

また、「各部署の意見調整」も、設問イでもウでも

問われたことがありました。

 

ここで重要なのは、各設問を切り離して理解するのではなく、

各設問は論文事例マップのように連続しているイメージを持つ

ということです。

 

硬直的に、この論旨は設問アでしか書いていけない、

といったことは無いのです。

(傾向的に、設問アで問われやすいものはありますが)

 

このことを理解していれば、

自身の用意してきた知識体系のセットを、

柔軟に設問に当てはめて回答できるようになるはずです。

 

論文事例マップは、ご自身の知識体系を整理し、

問われていることに対応しやすくするための

深堀りツールだと思ってください。

 

3. 自分だけの論文事例マップの作り方

では、実際に自分だけの論文事例マップを作成してみましょう。

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論文事例マップ。クリックして拡大してください。

まずは左上に論文題材例を書きましょう。

2つ以上は題材があるとよいと思います。

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論文題材例。2個以上は書けるようにしよう。

題材の書き方は、

(a)題材 (b)総開発工数 (c)開発費総額 (d)開発期間 (e)特徴・制約・背景

のトピックを書き出し、

ご自身の経験や文章を連想して引き出せるようにしておきます。

 

それから、過去問を何回か解いてください。

出来映えは、ひとまず度外視してかまいません。

 

出来上がった論文から、論文事例マップの楕円の下に書けることを

抽出して書きましょう。

 

自分の論文でなくても、論文事例集などから、

自分の文章として書けそうな文例をピックアップする、

でも構いません。

 

ただし、その際、前後の楕円や、

論文全体で矛盾の無いように注意してください。

 

矛盾が表れてないかを注意深く確認しながら、

矛盾があれば、文章を書きなおして、補正していきます。

この時、自分の認識も矯正しているという感覚を持つと

よいと思います。

 

型にはまる、ということにネガティブな印象を持たれる

方もいるかもしれませんが、

人間関係においても提案・交渉しやすい型というのは存在しますし、

まして合格だけを考えるならば、いかに早く

試験センターが意図する型を意識して自分を染めるかの勝負です。

 

私の提唱した論文事例マップに合わせて文例を整理すれば、

合格に近づけると思います。

慣れてきたら、自分のまとめやすい論旨(楕円の中に入る言葉)を

変えて、体系を整理しなおすのもよいでしょう。

※ただ、その体系で設問に答えられるか? ということは意識しましょう

 

4. ITストラテジストの論文ポイント

 

最後に、ITストラテジストにおける論文のポイントを

ご紹介しましょう。

論文マップでは、黄緑色の四角で書いた部分です。

 

  • 設問アの事業目標や課題は、ボトムアップトップダウンのシナリオがある
  • 事業課題やシステム概要は、QCDなどの切り口で分けて書くと書きやすい
  • システム化計画の論述は、「個別システム化構想」であることを念頭に置く
  • 設問イは長い文字数を書ききるため、分析プロセスや切り口を複数準備すること
  • システムそのものの記載は、テクニカル系の知識を盛り込みアピール
  • 各部署の意見調整は、マネジメントの経験があると書きやすい

 

全て盛り込む必要はありません。

ご自身の論文事例マップを作成する上でのヒントとなれば幸いです。

 

5. おわりに

いかがでしたでしょうか。

論文事例マップを作り、論文自体が楽しく取り組めるようになれば、

合格は一挙に近づくことと思います。

 

また、ITストラテジストで論文をやりきるためには、

戦略策定プロセス、経営戦略と情報戦略の関係、バランススコアカード(BSC)

などの知識に長じておくことも重要でしょう。

 

そういった個別的な知識を深堀した記事もゆくゆくはまとめたいと思います。

「読者になる」ボタンで、ブログの更新時に通知されますので、ご検討ください。

 

知識と自分の型の両輪で、合格をつかみ取れることを信じています。

合格の報告を楽しみにしています!

 

ではそれまで。

DX時代に資格に求めること

あらゆるメディアが声高に訴えている、IT業界におけるキーワード。

それがDX。デジタルトランスフォーメーション。

単なるバズワードでしょ? ユビキタス*1みたいな言葉でしょ?

そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

本記事では、IT業界の今を生きる人たちに向け、どのような過去があって今があるのか、そして今、資格に求めることについて、考えてみたいと思います。 

f:id:createrolerole:20210723233516p:plain

DX時代に。あなたは何を目標に勉強する?

 

 

収拾がつかない業務システム

経済産業省 DXレポート(2018)では、問題認識として、次のように書かれています。

ERPに代表される社内の基幹システムが、事業部や組織別に林立され、収拾がつかない

大企業で勤めている方であれば、多少なりとも実感のあることではないでしょうか。

「組織間は政治的な力が働くから何言ってもダメなんだよね」

「過去の経緯を知っている人がいないから、一見非効率でも続けるしかない」

そういう説得をされて腑に落ちない方も多いのではないかと思います。

 

一方、中小企業で働いている方であったとしても、情報システムが入っていれば、同じような悩みを持つ方がいるのではないでしょうか?

SIerの〇〇さんが作ったシステムで、社内で触れる人がいない」

「分からないまま改修しても影響がわからないので、今のまま使い続けるしかない」

これらの悩みは、本質的には同じところから来ていると思います。

では、なぜこのような状況になっているのでしょう。 

 

90年代のバブル崩壊

原因を追いかけて歴史を遡っていくと、90年代のバブル崩壊時にたどり着きます。

どういうことか。順に説明していきましょう。

 

なぜ、システム周辺の業務が収拾つかない状況になっているか。

それは分からないままシステムを継ぎはぎに改修してきたから、です。

場当たり的に必要に迫られて、システムを改修してきた結果、収拾がつかない状況になっている、というわけですね。

 

では、90年代のバブル崩壊とどう関係するか。

当時、日本は経済的な再生を目指し、大規模なリストラを図りました。

このとき、当時のいわゆる情報システム部門は、典型的な再配置対象でした。

この時に生まれたのが、「情報子会社」です。

 

ユーザ企業からは、情報システム部員が消えました。

これにより、情報子会社などのSier頼みになっていきます。

 

その結果、企業の中に「分かる人がいない」という状況が生まれてしまったということになります。

 

スキルの断絶とロストジェネレーション

90年代を耐え抜いたIT業界の人材は、厳しい情勢に耐えぬく必要がありました。

それまでよりも低い予算と少ない人員で、滞りなくシステムを回し続ける必要がありました。

その懸命さと愚直さには頭が下がる思いです。

ここでは、そうした厳しい状況を想像してみましょう。

 

組織的な観点で言うと、1960~70年代に台頭したメインフレームや電算機といったものを扱う「レガシーなITスキル」が、バブル崩壊のあおりを受けて断絶したと言えるでしょう。

90年代に入社あるいは若手時代を過ごした諸先輩がたは、彼らにとっての更なる先輩たちのやり方をそのまま真似することもできませんでした。

厳しい情勢とオーダーの中、手探りでシステムを稼働し続ける必要がありました。

業務に悪影響を与えてはいけないというプレッシャーの中、

「正常に動いて当たり前」

「要求に応えられて当たり前」

そのような目に晒されながら、評価もろくにされにくい環境で、必死に働きました。

こうしたロストジェネレーション世代が今日までシステムを守ってきたと言えるのではないでしょうか。

 

もちろん、皆が皆、そのような環境で働いていた訳ではないと思います。

ただ、今、管理職や重鎮となっている諸先輩がたにも、そのような時代があったのでは、と想像してみてください。

それだけで、後輩として接する我々としては、接し方を変えられるのではないか、と思うわけです。

 

「技術一辺倒」だと厳しい現実

時間の針を現在に戻して、今を生きるITエンジニアに、組織に関する情報を見てみましょう。

総務省の調査によると、情報システムに関する組織統計で、

CIO(最高情報責任者)を設置しているのは、米欧では3~4割にのぼるのに対して、日本では1割未満。しかも情報システムを統制するのに必要な実験を備えていないケースも多い。

とあります。

これは、今の日本が情報システムを軽視している表れだと思います。

 

この傾向は、一朝一夕では変わらないでしょう。

ここで言いたいのは、組織の中で生きるITエンジニアとしてキャリアプランを考えるうえで、「技術一辺倒」だと不利だ、ということです。

 

仮に、優秀で豊富なスキルをもったITエンジニアがいたとしましょう。

彼が、会社や事業に貢献をしたいと感じた時、会社が情報システム(ITエンジニア)をどのように扱っているか、というところが裁量の分かれ目になります。

前述したように、名ばかりのCIOやCIOすら設置しない組織においては、ITエンジニアが腕を振るう機会というのは、そうでない組織に比べて、壁や限界にぶつかるのが早いと思います。

 

しかし現実には、CIOすらいない会社の方が多い。

そこでITエンジニアといえども、高い理想を持つのなら、技術一辺倒では厳しいということを理解するべきです。

 

米欧とのスタンスの差とDXというメッセージ

平成バブル崩壊時にリストラ対象だった当時の情シスの多くは、情報子会社となりました。

それは当時の経営判断だったのでしょう。

ですが、その流れを汲んだ今、IT技術を活かしきれていない実情が、米欧と日本との差になって表れています。

 

日本のIT業界が多重下請け構造になったのに対し、米欧はパッケージをベースとした内製化を進めました。

その結果、GAFAと呼ばれる巨人や、桁の違う経済成長を見せつけられています。

日本のその間のIT業界の成長率は、比較に及ばないでしょう。

 

1990年代からの情シス担当者は、業者との蜜月関係を守ってきただけ。怠慢だ。

そんな意見もあるらしいです。

繰り返しますが、彼らはリストラに耐え、批判にも耐えた勇気ある人たちです。

ですが、だからと言って、今後も同じスタンスでいい訳ではない

 

経済産業省も米欧との差を問題視して、DXというメッセージに目をつけました。

この歴史と状況を見て、私たちは、単なるバズワードではなく、冷静に、活用するスタンスでいたいと思います。

 

ITエンジニアの処遇と企業データ

経済産業省はITエンジニアの平均給与に関するレポートも出しています。

日本のITエンジニア平均給与(30代) 526万

米欧のITエンジニア平均給与(30代) 1238万

給料を上げるだけで解決する問題でもないでしょうが、会社経営をデジタル化したいならば、人事制度も整備するべきでしょう。

読者の方で人事系所属の方がもしいたら、ぜひITエンジニアの待遇についても考えてみてほしいです。

 

また、IPA(2015年)が興味深い情報を出しています。

日本のSierなどに所属するIT人材 72%

米欧のSierなどに所属するIT人材 35%

米欧の方が、ITエンジニアはユーザ企業で辣腕をふるっている、という構図が見えてきそうです。

本質的には情報システムは手段であるべきです。

ですから、ユーザ企業に所属していた方が、自身が手掛けた情報システムが業績にどのような影響を与えたかをダイレクトに知ることができます。

よって、ユーザ企業に所属していた方が、モチベーションやアイディアが向上する、というケースはあるように思います。 

 

それを阻害しているのは、国全体や企業全体を支配する、情報システムへの冷遇の空気感だと思います。

これが、ITエンジニアがユーザ企業への流入が少ない原因であるように思います。

 

歴史と資格

どの業界でもそうでしょうが、会社や業界がどんな歴史を背負って今あるかということを知るのは重要です。

日本のIT業界は米欧と比べ差をつけられてしまっています。

その理由は、歴史を遡っていくと、90年代のバブル崩壊後の対応にあります。

 

また、組織の中で働く私たちは、自分の上司や組織長が、かつて果たしてきた役割に敬意を表すべきです。

今後はDXだ内製化と叫んだとしても、10年や20年というスパンでシステムを維持してきたのは諸先輩がたです。

私たちができるのは、共感と理解をもった上での実行です。

DXは一つの改革です。改革には、上司や組織長の協力が必須です。

 

そして、個人としては、会社への提案・異動希望・転職希望の際、自分の能力を示す手段としての資格はとても手っ取り早いです。

IT業界には、国家資格である情報処理技術者試験があります。

この資格は昭和40年代からあり、諸先輩が若手の頃から実績を積んでいた資格です。

私たちが、DXを標榜するエンジニアになるのなら、諸先輩の信用を得、動かすために、こうした資格を取得していくのも意味があると思います。

 

まとめ

本記事をまとめましょう。

  • 収拾がつかない業務システムは、日本のバブル崩壊が生んだ、構造的なひずみである
  • 米欧と日本は、情報システムの活用で大きく差をつけられてしまっている
  • 日本の組織は、技術一本やりで生きていくのには向いていない
  • 今日の日本の情報システムを守ってきたのは、90年代の諸先輩のエンジニアである
  • 諸先輩のエンジニアには敬意をもって接しつつ、私たちはDXの担い手となろう
  • 信用を得て活動するため・自分自身を守るため、資格をとるのは有力

 

そして、日本のIT業界には情報処理技術者試験という国家資格があります。

拠り所として、これほど歴史的・本格的な資格も無いと思うので、ぜひ、取得を検討しましょう。

 

本ブログでは、情報処理技術者試験の高度区分の試験対策についてまとめています。

「読者になる」ボタンで、ブログの更新時に通知されますので、ご検討ください。

 

資格をとった今を生きるエンジニアが、DX時代に羽ばたくことを願っています。

 

ではそれまで。

*1:2000年代に取り立てられたバズワード。偏在を意味する

令和2年度午後I問1・システム監査技術者試験 徹底解説!

更新:2022/8/29

本記事では、令和3年度秋季情報処理技術者試験受験予定の方に向けて、システム監査技術者試験の過去問の徹底解説をいたします。

1年前の過去問ですので、参考になるところが多いのではと思います。

ぜひ、不明点の洗い出しをしてみてください。

過去問はこちらです。

www.jitec.ipa.go.jp

問題の全体像

DX推進プロジェクト

午後I問1は、DX推進プロジェクトに関する問題です。

3か年計画の、2年目に差し掛かっている時点です。

問題文を読み進める際は、

1年間プロジェクトを回した現在、計画の支障となりそうな制約がどの程度出ているか

をチェックしながら読んでいくのがよいでしょう。

設問形式:T氏と監査室長の会話 

設問は5問です。

各設問1~5は下線①~⑤に対応しており、下線①~⑤は、問題文の最終段落である〔本調査のための検討〕に登場します。

〔本調査のための検討〕はT氏と監査室長の会話で進みます。

無理やり5問の設問に絡めるため、会話の内容は不自然に連続していきます。

皮肉な言い方ですが、会話文がどこで不自然になるかを見極められれば、どこからどこまでが設問の範囲かがわかります。

監査手続を問う設問

設問2, 3, 5 は監査手続を問う問題であり、システム監査技術者の頻出問題です。

本問題は5問中3問が問われており、よく問われる形式であることがわかります。

監査手続の問は、型で考えて回答しましょう。

型:(監査証跡)を査閲し、(リスクがコントロールされていること)を確認する 

監査証跡とリスクとコントロールについては、以下記事にまとめていますので、合わせてご確認ください。

studyrolerole.hatenablog.jp

 

それでは、各設問の解説に参りましょう。

設問1. 品管部門と保守部門の制約への対応

次のような設問です。

下線①品質管理部門や保守サービス部門でDX推進の制約となっている状況への対応として、本調査で確認するべき具体的な内容を、40字以内で述べよ

回答は、下線①の直後「システム再構築計画を見直しているか確認する」が述語になります。

回答の肝は、「どんな再評価を踏まえてか」ということになります。

下線①の主語は品質管理部門と保守サービス部門なので、各部門の持つ制約を盛り込めばよいです。

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システム監査技術者 令和2年 午後1 問1 設問1

どんな制約があるか、ですが、〔DX-PJの活動状況〕に書かれています。

品質管理部門には次のような記載があります。

品質管理部門では、製品部門のデータと組み合わせた分析を予定している。ただし、品質管理システムは、製品番号の下位の枝番レベルの詳細度の品質データを保持していないので、分析には制約がある

一方、保守サービス部門では、次のような記載があります。

保守サービス部門では、サービス窓口への問合せの分析を踏まえて、チャットボットによる応答の自動化を試行している。ただし、サービスサポートシステムが老朽化しているので、問合せ内容の分析に基づいたチャットボットの回答用データベースを1か月に2回以上の頻度では更新できないという制約がある

40字以内という指定で、後半部分「システム再構築計画を見直しているか確認する」(21字)は決まっているので、前半部は大して字数をかけられません。

  • 品質管理部門は、赤字部分を、部門間のデータ共有の制約
  • 保守サービス部門は、赤字部分を、データ更新頻度の制約

くらいに丸めてしまう必要があるでしょう。

回答例としては、

部門間データ共有やデータ更新頻度の制約を加味して再構築計画を見直していること (38字)

というところでしょう。

ただ、試験センターの回答例では、保守サービス部門の制約には触れておらず、疑問が残ります。

採点講評には、「必要な詳細度や頻度をもったデータ」という記載があることから、考え方としては、それぞれの部門の制約(詳細度=品質管理部門の制約、頻度=保守サービス部門の制約)を回答の根拠とすれば、正答としてもらえるでしょう。

設問2. PoCのリスクコントロールの監査手続

次のような設問です。

下線②そのリスクが低減できているかどうかを監査を行うための具体的な監査手続を45字以内で述べよ。

分かりやすい設問です。

下線②周辺の監査室長のコメントに、「DX-PJの活動目標」を基にせよとあるので、回答の素材は活動目標から拾います。

また、下線②の「そのリスク」とは、直前のT氏の発言に、PoCから役に立つ効果が得られないリスクとあるので、これも頭に入れておきます。

以上より、設問2で問われている監査の目的は、PoCから役に立つ効果が得られないリスクをコントロール(回避)できるか確認するため、ということになるでしょう。

そのために何をどう確認する(=監査手続)かを念頭に置き、「DX-PJの活動目標」を読んでみます。

すると、1年目の活動目標に、「活動テーマに即した仮説を設定した上で、PoCをする」という活動が書かれています。

最後に、監査人として、何を(どのドキュメントを)確認するか、ということでPoCに関連する資料を探します。

すると、〔DX-PJの活動状況〕の(1)に、「PoC報告書」という資料が定義されていることがわかります。

以上より、回答例は次の通りです。

PoC報告書を査閲して、活動テーマに即した仮説が設定されているかを確認する(37字)

設問3. 人事部門への監査手続

次のような設問です。

下線③人事部門を対象とした監査を行うための具体的な監査手続を45字以内で述べよ。

これも分かりやすい設問です。

問題全体において、人材・スキルに関する記述は少ないからです。

下線③の会話の直前に、T氏と室長は、DX推進の人材が不足していることのリスクに言及しています。

人事部門に関する記述は、〔情報システムに関係した施策の状況〕の(2)にしか記載されていません。

人事部門は、人材類型定義書を作成しており、これが査閲対象になることは容易に予測がつくと思います。

書類名を入れておけば、それだけで部分点は狙えるでしょう。

回答例は次の通りです。

人材類型定義書を査閲して、DXに必要な人材像が明確になっているかを確認する(37字)

設問4. 権限や責任の明確化を要する理由

次のような設問です。

下線④データの収集・蓄積・活用のための責任と権限を定めたルールの整備について、室長がルールの整備も必要と考えた理由を、〔DX-PJの活動状況〕の内容を踏まえて、35字以内で述べよ。

実務のリーダやMGRクラスであれば易しかったように思います。

組織間の責任や権限について常日頃から考えているだろうからです。

データ活用について、責任や権限に関する制約が述べられているのは、〔DX-PJの活動状況〕の(7)です。

他部門へのデータの提供可否判断や、データ内容の正確性や網羅性の確保について、責任や権限が不明確なため、活用が困難という意見がある。

35字以内に理由部分をまとめます。

回答例は次の通りです。

責任や権限が不明瞭であると、部門間のデータ活用に支障があるため(31字)

設問5. 人事部門への監査手続

次のような設問です。

下線⑤そのリスクに対応できているかどうかの監査を行うための具体的な監査手続を45字以内で述べよ。

これも実務に携わっている方であれば回答しやすかったと思います。

一言で言うと、進捗管理しているかを議事録見て確認しよう、ということです。

当たり前すぎて回答しにくいという声もあるかもしれませんね。

詳しく見ていきましょう。

下線⑤にある「そのリスク」とは、直前の室長の発言に書かれています。

DX-PJの進捗状況を把握していないと、活動目標が、どの程度、達成できているかが曖昧になるリスクがある。

リスクは、「目標の達成具合がわからなくなること」ですね。

DX-PJとしては、そのリスクをコントロールするため、月次でDX-PJ定例会を開催しています。

このことは、〔"デジタル経営構想"の概要〕の (2)推進体制に書かれています。

経営企画室がDX-PJの事務局となり、各部門の代表者によるDX-PJ定例会を月次で開催し、進捗状況を確認している

また、DX-PJ定例会の成果物として、議事録があるということは、〔DX-PJの活動状況〕の1行目に書かれています。

T氏は、予備調査として、DX-PJ定例会の議事録を閲覧して、DX-PJの活動状況を把握した。 

以上より、DX-PJ定例会の議事録を監査証跡として、目標の達成具合が確認されているか、ということが回答の骨子となります。

回答例は次の通りです。

DX-PJ定例会の議事録を査閲して、目標に対する進捗状況が管理されているか確認する(40字)

 

監査手続の設問の振り返り

設問2, 3, 5 は監査手続を問う問題でした。

もう一度、リスクとコントロールと監査手続の「3点セット」を当てはめて通して考えてみましょう。

3点セットの考え方については、以下記事にまとめていますので、合わせてご確認ください。

studyrolerole.hatenablog.jp

まず、リスクから、設問横断的に見てみましょう。

[リスク]

  • 設問2 PoCから役に立つ効果が得られないリスク
  • 設問3 DX推進の人材が不足していることのリスク
  • 設問5 目標の達成具合がわからなくなるリスク

次に、コントロールを考えてみます。

[コントロール]

  • 設問2 活動テーマに即した仮説を設定した上で、PoCをする
  • 設問3 求める人材像を明確にする方針のもとで人材類型定義書を作成・更新する
  • 設問5 各部門の代表者によるDX-PJ定例会を月次で開催し、進捗状況を確認する

コントロールは、リスクとの関係を明らかにするために、「(コントロール)することにより(リスク)を減らす」のように文を作ってみると分かりやすいと思います。

設問2の場合で言うと、

活動テーマに即した仮説を設定した上でPoCをすることで、PoCから役に立つ効果が得られないリスクを減らす

ということになります。

最後に監査証跡を確認します。監査行為には、具体的な監査証跡が必要です。

[監査証跡]

  • 設問2 PoC報告書
  • 設問3 人材類型定義書
  • 設問5 DX-PJ定例会の議事録

あとは、監査手続の型に当てはめて回答しましょう。

型:(監査証跡)を査閲し、(リスクがコントロールされていること)を確認する 

設問2の場合は、

PoC報告書を査閲して、活動テーマに即した仮説が設定されているかを確認する(37字)

ということになります。

実際は、制限字数があるので、この通りにあてはめられないこともあるでしょう。

しかし、この「型」を知っていることにより、字数の制限に合わせて適切な回答文を最短時間で導き出すことができるでしょう。

おわりに

いかがでしたでしょうか?

システム監査技術者試験は、リスク・コントロール・監査手続の3点セットが、大きな知識スタックとなるでしょう。

 

余談となりますが、私がシステム監査技術者に合格したのも令和2年度です。

その時の記事もまとめていますので、体験談として読まれたい方は、こちらもどうぞ。

>システム監査技術者試験に合格しました!

 

本記事を読んでいただいた方も、同じ結果になることを、願っています。

 

ではそれまで。