あらゆるメディアが声高に訴えている、IT業界におけるキーワード。
それがDX。デジタルトランスフォーメーション。
単なるバズワードでしょ? ユビキタス*1みたいな言葉でしょ?
そうかもしれないし、そうでないかもしれない。
本記事では、IT業界の今を生きる人たちに向け、どのような過去があって今があるのか、そして今、資格に求めることについて、考えてみたいと思います。
- 収拾がつかない業務システム
- 90年代のバブル崩壊
- スキルの断絶とロストジェネレーション
- 「技術一辺倒」だと厳しい現実
- 米欧とのスタンスの差とDXというメッセージ
- ITエンジニアの処遇と企業データ
- 歴史と資格
- まとめ
収拾がつかない業務システム
経済産業省 DXレポート(2018)では、問題認識として、次のように書かれています。
ERPに代表される社内の基幹システムが、事業部や組織別に林立され、収拾がつかない
大企業で勤めている方であれば、多少なりとも実感のあることではないでしょうか。
「組織間は政治的な力が働くから何言ってもダメなんだよね」
「過去の経緯を知っている人がいないから、一見非効率でも続けるしかない」
そういう説得をされて腑に落ちない方も多いのではないかと思います。
一方、中小企業で働いている方であったとしても、情報システムが入っていれば、同じような悩みを持つ方がいるのではないでしょうか?
「SIerの〇〇さんが作ったシステムで、社内で触れる人がいない」
「分からないまま改修しても影響がわからないので、今のまま使い続けるしかない」
これらの悩みは、本質的には同じところから来ていると思います。
では、なぜこのような状況になっているのでしょう。
90年代のバブル崩壊
原因を追いかけて歴史を遡っていくと、90年代のバブル崩壊時にたどり着きます。
どういうことか。順に説明していきましょう。
なぜ、システム周辺の業務が収拾つかない状況になっているか。
それは分からないままシステムを継ぎはぎに改修してきたから、です。
場当たり的に必要に迫られて、システムを改修してきた結果、収拾がつかない状況になっている、というわけですね。
では、90年代のバブル崩壊とどう関係するか。
当時、日本は経済的な再生を目指し、大規模なリストラを図りました。
このとき、当時のいわゆる情報システム部門は、典型的な再配置対象でした。
この時に生まれたのが、「情報子会社」です。
ユーザ企業からは、情報システム部員が消えました。
これにより、情報子会社などのSier頼みになっていきます。
その結果、企業の中に「分かる人がいない」という状況が生まれてしまったということになります。
スキルの断絶とロストジェネレーション
90年代を耐え抜いたIT業界の人材は、厳しい情勢に耐えぬく必要がありました。
それまでよりも低い予算と少ない人員で、滞りなくシステムを回し続ける必要がありました。
その懸命さと愚直さには頭が下がる思いです。
ここでは、そうした厳しい状況を想像してみましょう。
組織的な観点で言うと、1960~70年代に台頭したメインフレームや電算機といったものを扱う「レガシーなITスキル」が、バブル崩壊のあおりを受けて断絶したと言えるでしょう。
90年代に入社あるいは若手時代を過ごした諸先輩がたは、彼らにとっての更なる先輩たちのやり方をそのまま真似することもできませんでした。
厳しい情勢とオーダーの中、手探りでシステムを稼働し続ける必要がありました。
業務に悪影響を与えてはいけないというプレッシャーの中、
「正常に動いて当たり前」
「要求に応えられて当たり前」
そのような目に晒されながら、評価もろくにされにくい環境で、必死に働きました。
こうしたロストジェネレーション世代が今日までシステムを守ってきたと言えるのではないでしょうか。
もちろん、皆が皆、そのような環境で働いていた訳ではないと思います。
ただ、今、管理職や重鎮となっている諸先輩がたにも、そのような時代があったのでは、と想像してみてください。
それだけで、後輩として接する我々としては、接し方を変えられるのではないか、と思うわけです。
「技術一辺倒」だと厳しい現実
時間の針を現在に戻して、今を生きるITエンジニアに、組織に関する情報を見てみましょう。
総務省の調査によると、情報システムに関する組織統計で、
CIO(最高情報責任者)を設置しているのは、米欧では3~4割にのぼるのに対して、日本では1割未満。しかも情報システムを統制するのに必要な実験を備えていないケースも多い。
とあります。
これは、今の日本が情報システムを軽視している表れだと思います。
この傾向は、一朝一夕では変わらないでしょう。
ここで言いたいのは、組織の中で生きるITエンジニアとしてキャリアプランを考えるうえで、「技術一辺倒」だと不利だ、ということです。
仮に、優秀で豊富なスキルをもったITエンジニアがいたとしましょう。
彼が、会社や事業に貢献をしたいと感じた時、会社が情報システム(ITエンジニア)をどのように扱っているか、というところが裁量の分かれ目になります。
前述したように、名ばかりのCIOやCIOすら設置しない組織においては、ITエンジニアが腕を振るう機会というのは、そうでない組織に比べて、壁や限界にぶつかるのが早いと思います。
しかし現実には、CIOすらいない会社の方が多い。
そこでITエンジニアといえども、高い理想を持つのなら、技術一辺倒では厳しいということを理解するべきです。
米欧とのスタンスの差とDXというメッセージ
平成バブル崩壊時にリストラ対象だった当時の情シスの多くは、情報子会社となりました。
それは当時の経営判断だったのでしょう。
ですが、その流れを汲んだ今、IT技術を活かしきれていない実情が、米欧と日本との差になって表れています。
日本のIT業界が多重下請け構造になったのに対し、米欧はパッケージをベースとした内製化を進めました。
その結果、GAFAと呼ばれる巨人や、桁の違う経済成長を見せつけられています。
日本のその間のIT業界の成長率は、比較に及ばないでしょう。
1990年代からの情シス担当者は、業者との蜜月関係を守ってきただけ。怠慢だ。
そんな意見もあるらしいです。
繰り返しますが、彼らはリストラに耐え、批判にも耐えた勇気ある人たちです。
ですが、だからと言って、今後も同じスタンスでいい訳ではない。
経済産業省も米欧との差を問題視して、DXというメッセージに目をつけました。
この歴史と状況を見て、私たちは、単なるバズワードではなく、冷静に、活用するスタンスでいたいと思います。
ITエンジニアの処遇と企業データ
経済産業省はITエンジニアの平均給与に関するレポートも出しています。
日本のITエンジニア平均給与(30代) 526万
米欧のITエンジニア平均給与(30代) 1238万
給料を上げるだけで解決する問題でもないでしょうが、会社経営をデジタル化したいならば、人事制度も整備するべきでしょう。
読者の方で人事系所属の方がもしいたら、ぜひITエンジニアの待遇についても考えてみてほしいです。
また、IPA(2015年)が興味深い情報を出しています。
日本のSierなどに所属するIT人材 72%
米欧のSierなどに所属するIT人材 35%
米欧の方が、ITエンジニアはユーザ企業で辣腕をふるっている、という構図が見えてきそうです。
本質的には情報システムは手段であるべきです。
ですから、ユーザ企業に所属していた方が、自身が手掛けた情報システムが業績にどのような影響を与えたかをダイレクトに知ることができます。
よって、ユーザ企業に所属していた方が、モチベーションやアイディアが向上する、というケースはあるように思います。
それを阻害しているのは、国全体や企業全体を支配する、情報システムへの冷遇の空気感だと思います。
これが、ITエンジニアがユーザ企業への流入が少ない原因であるように思います。
歴史と資格
どの業界でもそうでしょうが、会社や業界がどんな歴史を背負って今あるかということを知るのは重要です。
日本のIT業界は米欧と比べ差をつけられてしまっています。
その理由は、歴史を遡っていくと、90年代のバブル崩壊後の対応にあります。
また、組織の中で働く私たちは、自分の上司や組織長が、かつて果たしてきた役割に敬意を表すべきです。
今後はDXだ内製化と叫んだとしても、10年や20年というスパンでシステムを維持してきたのは諸先輩がたです。
私たちができるのは、共感と理解をもった上での実行です。
DXは一つの改革です。改革には、上司や組織長の協力が必須です。
そして、個人としては、会社への提案・異動希望・転職希望の際、自分の能力を示す手段としての資格はとても手っ取り早いです。
IT業界には、国家資格である情報処理技術者試験があります。
この資格は昭和40年代からあり、諸先輩が若手の頃から実績を積んでいた資格です。
私たちが、DXを標榜するエンジニアになるのなら、諸先輩の信用を得、動かすために、こうした資格を取得していくのも意味があると思います。
まとめ
本記事をまとめましょう。
- 収拾がつかない業務システムは、日本のバブル崩壊が生んだ、構造的なひずみである
- 米欧と日本は、情報システムの活用で大きく差をつけられてしまっている
- 日本の組織は、技術一本やりで生きていくのには向いていない
- 今日の日本の情報システムを守ってきたのは、90年代の諸先輩のエンジニアである
- 諸先輩のエンジニアには敬意をもって接しつつ、私たちはDXの担い手となろう
- 信用を得て活動するため・自分自身を守るため、資格をとるのは有力
そして、日本のIT業界には情報処理技術者試験という国家資格があります。
拠り所として、これほど歴史的・本格的な資格も無いと思うので、ぜひ、取得を検討しましょう。
本ブログでは、情報処理技術者試験の高度区分の試験対策についてまとめています。
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資格をとった今を生きるエンジニアが、DX時代に羽ばたくことを願っています。
ではそれまで。