
本記事ではITストラテジストの午後II(論文)対策として、
令和6年問1で出題された過去問を分析します。
実際に論文を書く上での考え方を整理し
論文骨子を設計するところまでやっていきます。
問題(令和6年問1)

過去問は試験センターから引用しています。

設問文は以下の通り。

何が問われているかを把握する
本問は設問ア・イ・ウに問題文を照らし合わせた時に、
段落一つに設問一つが対応するという意味で、比較的シンプルです。
設問アは「DXの狙い」「施策」「新たな情報技術」「事業特性」を
問われています。
IPAの目指すDX像は、単なる業務改善やシステムの構築ではなく、
ビジネスモデルの変革や全く新しい事業を起こすようなことが
求められているので、論述テーマにも注意しましょう。
なお、DX自体をどのようにどのレベル感で事例として
論述すればよいかは令和3年問1の書き方記事に
詳しくまとめているのでご参照ください。
設問イは、「机上確認」「技術検証」について問われています。
どのような検証を行ったかを記載する必要があるので、
情報技術そのものに対する経験が少ないと不利になりそうです。
システムアーキテクトの受験経験者・合格者であれば
有利になるでしょう。
設問ウは、「リスクと対策」「経営層への報告」「指摘と改善点」が
問われています。新たな情報技術の机上確認・技術検証を経て
明らかになったリスクであることが必要であり、
一般論でのリスクにならないように注意しましょう。
出題要旨と採点講評からの分析

試験センターから公表されている出題要旨と採点講評を確認して
出題の意図と論述のNG例を把握します。
出題要旨

出題要旨の1文目に、
従来の情報技術では実現できなかった施策を実施するために
とあります。
「施策」は設問アで問われますが、その施策は
「従来の情報技術では実現できなかった」施策である必要があることに
注意しましょう。
2文目に
何を机上確認し、どのような技術検証を行ったか
とありますが、この部分は設問イに、
企画を推進する上でのリスクとその対策について何を経営層に説明したか
とありますが、この部分は設問ウに対応しています。
3文目に総括として
- 情報技術を評価する能力
- DXへの技術活用の能力
- 経営層への説明力
を評価するとあります。
情報技術そのものへの造詣が必要とされるので、
システムアーキテクトの経験があると有利でしょう。
採点講評

「全問共通」の採点講評はここ数年同じことが書かれており、
"論述の対象とする構想、計画策定、システム開発などの概要"又は"論述の対象とする製品又はシステムの概要"が適切に記述されていないものが散見された
とあります。
論文用紙の前にある、下の画像のような論述の概要を記載する用紙ですね。

試験センターも明確に「評価の対象」と言っているので、
手を抜かずに記入しましょう。
聞かれる項目はほぼ毎回同じなので、
予め回答を想定して準備しておきましょう。
また、
活用したAIについて具体性に乏しい
というNG例が記載されています。
AIを用いてどのように活用したのか。何のAIか。
どのように学習させたか。などといった具体的な
AI「ならでは」のキーワードや検討内容を盛り込む
ことが対策となるでしょう。

問1の採点講評の2文目には次のNG例が紹介されています。
- 製品選定にとどまっている論述
- 取組の手順だけを説明し、検証内容や結果が説明されていない論述
- 技術的な検証に終始した論述
問1を選択される方はテクニカルスキルをベースに論述する自信のある方が
多かったものと推察します。
ITストラテジストは経営との橋渡し役となる振る舞いを求められるので、
経営や事業の観点から机上確認・技術評価することが大切です。
また4文目にも次のNG例が紹介されています。
- DXの狙いが何か、なぜその情報技術が必要なのかが具体的ではない論述
- デジタル技術の導入に終始している論述
狙いやなぜ情報技術が必要かという点は、設問アにて論述される
「DXの狙い」「施策」と整合性をとって論述する必要があります。
どんなに立派な情報技術を採用したとしても、上段の経営戦略や施策と
同じ向きを向いていなければ、不適切ということです。
どのように論文を設計すればNG例に抵触しないか、
次節より説明していきます。
論文を設計する

問われていることの概略を把握したら
自身の経験や用意してきた論文パーツに当てはめて
どのように論述を展開するかを設計します。
設問アの設計
設問アは「DXの狙い」「施策」「新たな情報技術」「事業特性」
を問われています。
「DXの狙い」「施策」は問題文には次のように例示があります。
情報技術を使った新サービスの開発や既存事業の改革などの施策
その施策の中で、従来の情報技術ではできなかったことを実現するために
「新たな情報技術」は問題文には次のような例示があります。
AIやIoT
カギは「事業特性」であり、これだけは問題文に例示が無いため、
受験者が自分で想定し論述する必要があります。
設問アのポイントは次の2つです。
- DXを具体的に論述できているか
- 採用する情報技術の必要性を論述できているか
前者は、DXの狙いが、一連の論述がビジネスモデルの変革をもたらすもの、
新事業・新サービスを実現しえるものになっているかをチェックしましょう。
後者は、採点講評にもある通り、なぜその情報技術がDXの狙いや施策を
実現できるのかについての説得力が必要です。
論述の構造としては、まずDXの狙いとして新たなビジネスや仕組みが
検討されていることを施策として挙げ、
その施策を実現するために新たな情報技術が必要、というように
展開していけば書きやすいでしょう。
その際、事業特性にも触れ、「その事業特性があるからこそ施策が有効」
「その事業特性の強みが施策を実現する」といった関係で
論旨展開できるとより良いと思います。
設問イの設計
設問イでは新たな情報技術の「机上確認」「技術検証」が
問われています。
設問文には「どのような」机上確認、技術検証を行ったか、
「その結果や工夫したことともに」という指定があり、
具体的な手順や考慮ポイントを網羅して論述する必要があります。
具体的に論述するには情報技術そのものの知識やPoCの経験が
あると有利でしょう。
また問題文を確認すると「机上確認」する対象として、
- 業務要件への適合性
- 業界における規制への対応
- 性能・拡張性・セキュリティなどの非機能要件への適合性
- 情報技術の利用における継続性
という例示があります。
また「技術検証」については
- 試験的な導入
- シミュレーション
を通じて、技術検証を行う、とあります。
「机上確認」の具体的な手法としては、
要件へのヒアリング、分析、市場調査、先行事例調査などが
あげられると思います。
その中で特に工夫した点を盛り込むようにしましょう。
その際、「なぜそのように工夫したか」についても触れ、
「DXの狙いや事業特性があるから」というように論述する
ことによって、設問アを含めた一貫性のある論旨を展開できます。
例えば、次のような具合です。
私は収集するデータフォーマットの設計を重要視する方針を立てた(工夫点)。なぜならば、顧客からの関係性が強いA社は取り扱う製造機械や制御部品のカスタマイズや新製品を開発することが多く(事業特性)、初めから全ての収集すべきデータを定義しきることが困難であるためである。そのため、私は設計すべきデータフォーマットには拡張性に配慮するよう設計担当者に指示をした(結果)。
また、他の例として「工夫したこと」をアピールするには、
「机上確認」や「技術検証」によって、複数の案が生じ、
比較検討するという文脈も良く使われる論述テクニックです。
最終的に案を選定する時に、「DXの狙いを達成できるから」
「事業特性があるから」という理由を持ってくることで、
設問アを含めた一貫性のある論文を書くことができます。
設問ウの設計
設問ウは「リスクと対策」「経営層への報告」「指摘と改善点」が
問われています。
設問イの机上確認・技術検証を経て明らかになったリスクで
あることが必要であり、一般論でのリスクにならないように
注意しましょう。
問題文では
事業への適用におけるその情報技術の特性を理解した上で
という条件があります。
また例としては
- AI倫理などのコンプライアンスリスクに関するリスク
- 計画していた予算や体制などの経営リソースに影響を及ぼすリスク
が挙げられています。
他にも考えやすいのは取得・収拾するデータに秘密情報や個人情報などが
含まれ得るリスクです。
その場合は、ハッシュ化などで無害化したり、契約書で目的外の使用は
禁止するなどの条項を入れたりするなどの対策が考えられます。
「経営層への報告」「指摘と改善」は
設問ウとしては"頻出問題"です。
問題文にもヒントや例示は無いですが、
報告時は経営目標や事業目標を見据えて説明していることなど、
ITストラテジストとして経営と情報戦略の橋渡しをする振る舞いを
アピールしましょう。
論文骨子

論文骨子の一例を示します。
■設問ア
1.DXの実現に向けて検討した情報技術と背景
A社:部品の製造機械や制御部品を扱うメーカー
1-1.DXの狙いと施策内容
DXの狙い:
・既存業態を改革し利益率を3年で5%改善する
・新たな情報技術を用いて新サービスを開発する
具体的な施策:
・AIやIoTといった情報技術を採用することで、
納入後の製造機械や制御部品の故障予兆や稼働率な
どの情報を収集する
・単なる受注生産型のビジネスモデルから脱却し、予
防保守や予防交換を行う新サービスを実現する
1-2.検討対象となった新たな情報技術と必要性
IoTを検討する必要性:A社が納入した製造機械や
制御部品にセンサーを取り付け、インターネット経由で
故障予兆や稼働率の情報をデータ基盤へ収集し、状況を
監視・反映する仕組みを実現するため
AIを検討する必要性:データ基盤に収集された膨大な
データからパターンをモデル化し、故障予兆の検知に
繋げるため
事業特性:A社が普段から顧客との関係性が強く、
何かあった時にすぐに営業社員や保守社員が
駆けつけて対応することができるという強み
■設問イ
2.施策の実施に向けた机上確認と技術検証
2-1.机上確認
データ要件:
・機械の稼働時間、稼働電圧の推移など一定期間の連
続的なデータ収集が必要であること
・湿度・温度・粉塵濃度・振動数など機械によって多
岐に渡るデータ収集が必要であること
工夫点:データフォーマットの設計を重要視
理由:顧客からの関係性が強いA社は取り扱う
製造機械や制御部品のカスタマイズや新製品を
開発することが多く、初めから全ての収集すべきデ
ータを定義しきることが困難であるため
結果:設計すべきデータフォーマットには拡張性に配慮
2-2.技術検証
課題:センサーの消費電力が予想よりも20倍大きい
対策案① データフォーマットの設計を見直し
データ送信時の負荷を軽減する
対策案② デバイスのバッテリーを付け替え可能とし、
定期保守点検時にA社保守作業員が
取り換える運用とする
案②を採用。A社は顧客との関係性が強いことから、
現実的な定期保守点検の頻度でもデバイスの電池残量を
維持しながらバッテリー交換が可能なことが分かったため
■設問ウ
3.検証を通して得たリスクと経営層への報告
3-1.リスクと対策
リスク:顧客に納入した製造機械や制御部品から
収集するデータを解析することで、顧客の製造
実績や計画が予測出来てしまう
対策①収集データは最小限かつ内容をハッシュ化・無意味化
対策②新サービスの契約書に収集データは利用目的を限定
3-2.経営層への報告と指摘・改善
具体的成果を定量的に図表で整理し、投資対効果を明確化。
中長期目標である利益率の5%改善も達成できることを説明。
指摘:新サービスを最適にリリースするため部署の
トップ同士も定期的なレビューに参画させるよう指示あり。
改善:レビュー体制の改善
論文全文について
ここまででも十分考え方はお伝え出来たかと思いますが、
論文全文を参考にされたい方は有料とはなりますが
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本記事ではITストラテジストの午後II(論文)対策として、
令和6年問1で出題された論文の書き方を紹介しました。
AIやIoTなどの先端技術をテーマにしたPoCを実施した
経験のある方は取り組みやすかったものと思います。
私自身の受験記もまとめているので合わせて参考にしてください。
また、他の区分・過去問の【論文の書き方】の記事については
以下リンクを参照ください。
論文の書き方 カテゴリーの記事一覧 - スタディルーム by rolerole
今後も、【論文の書き方】記事を充実して参ります。
ではそれまで。