
本記事ではプロジェクトマネージャーの午後II(論文)対策として、
令和6年問1で出題された過去問を分析します。
モチーフとして「AIシステム開発」を扱います。
実際に論文を書く上での考え方を整理し
論文骨子を設計するところまでやっていきます。
問題(令和6年問1)

過去問は試験センターから引用しています。

設問文は以下の通り。

何が問われているかを把握する
本問は最近頻出のテーマである「不確かさへの対応」の一形態です。
その中でもコストマネジメントに特化している点が特徴です。
設問アでは「不確かさ」の内容や「不確かさ」のある状況での
コストの見積りへの影響、コストへの要求事項、
ステークホルダと共有した認識について問われています。
設問イでは計画段階におけるコストの予測活動について
問われています。再見積りタイミングやステークホルダとの協力内容、
コスト差異の顕在時の対応方針などについて述べます。
設問ウでは実行段階におけるコストの調整について
問われています。実際の再見積りタイミングや発覚した差異の内容、
承認を得た差異への対応策などについて述べます。
出題要旨と採点講評からの分析

試験センターから公表されている出題要旨と採点講評を確認して
出題の意図と論述のNG例を把握します。
出題要旨

頻出のテーマである「不確かさへの対応」の一形態です。
その中でもコストマネジメントに特化している点が特徴です。
不確かさのある中で、コストの見積りは計画段階と実行段階で
食い違うことが多く、差異が発生することをあらかじめどう
カバーするのか、吸収するのかといったコントロールが求められます。
なお、「不確かさ」の背景として、
「事業改革の進め方が未定」「新たに適用するデジタル技術の効果が不明」
といった例が問題文では示されています。
見通しのつきづらい状況の中でプロジェクトをマネジメントできる
人材が待望されていることが分かりますね。
採点講評

はじめに「全問共通」の採点講評ですが、
正確な予測を妨げる要因や外部環境の変化について、以降の論述との関係性が不明確
というNG例が紹介されています。
「正確な予測を妨げる要因」は問1の「不確かさ」を示しており、
設問アで書いた「不確かさ」に対して
以降の論述=設問イやウとの関係性が不明確な論述は
NGであると示しています。
経験が感じられなかったりする論述
もNGであると示していますが、これは例年指摘されているものです。
当ブログでは何度も述べていますが、
受験者に「実際の経験」は不要です。
「経験があると感じさせる」論述が書ければよいです。
マネジメント手法の一般論に終始したり、マネジメントやリーダーシップのスタイルの一般的な特性を述べるにとどまったりする論述
もNGであると示しています。
具体的には、教科書や一般論をなぞっただけではなく、
問題文に与えられたテーマや状況と、
プロジェクトの特徴・独自性を踏まえた論述が書けていることが
ポイントです。
上記がピンとこない方は、本問を例にどのように論述して
ゆけばよいかを説明していきます。

問1の採点講評によると、
予測の精度を上げる活動については、ステークホルダとの協力を含む具体的な行動に関する論述
を期待したとあります。
最低限、ステークホルダを具体的に示したうえで、
プロジェクトマネージャーとして主体的・能動的に
調整を図り、不確かさを乗り越えた論文を書きましょう。
見積り手法に関して論述したり、抽象的な論述
はNGであったと述べられています。
コストマネジメントに意識を振られすぎると見積り手法(テクニック)
に終始しがちなので、プロジェクトマネージャーとして
周辺のマネジメント(統合管理)を意識した対応が
必要になることに注意しましょう。
論文を設計する

問われていることの概略を把握したら
自身の経験や用意してきた論文パーツに当てはめて
どのように論述を展開するかを設計します。
設問アの設計
設問アは「予算を含むステークホルダのコストに関する要求事項」
「不確かさ及び不確かさがコストの見積りに与える影響」
「影響についての認識をステークホルダと共有するために実施したこと」
について問われています。
問題文をよく読み、設問アの論述ポイントを確認します。

設問イ、ウでは「予測活動」の計画・実行について
論述することになるので、設問アでは「予測活動」に至る
背景について論述します。
書き方の一例としては、
まず具体的なプロジェクトにおける「不確かさ」について書き、
その内容が「コストの見積りに与える影響」について書きます。
次に具体的なステークホルダについて書き、
ステークホルダと「不確かな状況でプロジェクトを進める現状」を
意見交換の場やヒアリングを設けるなどして共有します。
最後にステークホルダから聞き出した、そうした状況における
「コストに関する要求事項」を書きます。
唯一の解ではありませんが、上記の順序で執筆すると
書きやすいと思います。
また、800字で書ききる必要がありますが、
比較的文字数オーバのリスクの大きい設問であるといえるでしょう。
本記事の場合は、「AIシステム開発」が
「不確かさ」の背景にあるとしています。
AIを新たに適用するデジタル技術として、
その効果がプロジェクト開始段階で不明確である、
という点を特徴とします。
AIを利用した開発プロジェクトにおいては、
- 教師データの品質や所要量が開発途中で判明する
- 商用化前のAPIやライブラリの変更
- 業務要件の途中変更(PoC結果による方向転換)
などが主だった不確かさです。
コストの見積りに与える影響としては、たとえば
- 教師データの不足や誤りには、再収集・前処理工程が延び、追加工数(コスト)がかかる
- 外部APIの仕様変更には実装変更・再検証が発生し緊急対応コストがかかる
- 業務要件の変更には要件再整理・モデルの再設計による追加コストがかかる
といった点が挙げられるでしょう。
設問イの設計
設問イは予測活動の計画について問われています。
具体的には、設問文では
「コストの再見積りのタイミングを決める条件」
「予測活動におけるステークホルダとの協力の内容」
「再見積りしたコストと予算との差異への対応方針」
を問われています。
一般論としては、仮にベンダーと契約してプロジェクトを
進める場合、PoC段階と商用化段階で契約形式を分けて
進めるケースが考えられます。
PoC段階では準委任型、商用化段階では成果報酬型といった
ような契約形態とすることが主流です。
なぜなら、不確かさのため業務要件や技術要素が流動的なので
請負契約は不向きであり、成果報酬と報酬の連動性を分ける形式が
効果的であるためです。
また別の一般論としては、
既知・未知のリスクに対してあらかじめ
見積りに含めていくことが考えられます。
この場合、再見積り時に当初見積りとの乖離(増額)があった
場合に、しかるべき変更管理プロセスを設け
予備費を充当することでリスクをコントロールすることになります。
採点講評によると
ステークホルダとの協力を含む具体的な行動
が重視されていることが分かります。
上述の一般論から推し進めると、
準委任型・成果報酬型の契約形態とするにはベンダーとの
合意形成が必要で、ベンダーがステークホルダとなります。
また、予備費の充当に関しては財務部や経営層の承認が
必要になることから、財務部や経営層がステークホルダとなり
あらかじめ認識合わせしておく必要があるでしょう。
本記事の場合は、「AIシステム開発」を
「不確かさ」の背景にあるとしています。
PoC段階で学習モデルや応答性の指標をあらかじめ設けておき、
たとえば2マイルストーン連続で未達だった場合に
「再見積りを発動させるトリガとする」というように論述を
展開すると、趣旨に沿った論文が書けると思います。
設問ウの設計
設問ウは予測活動の実行について問われています。
具体的には、設問文では
「実施した再見積りのタイミング」
「再見積りしたコストと予算との差異の内容」
「ステークホルダに報告して承認を得た差異への対応策」
を問われています。
計画フェーズで"基準"を定め、実行フェーズで生じた問題を
"基準をもとに対応する"という形はPM区分の
典型的な構図です。
たとえば計画フェーズにおいて、既知のリスク発覚時に
コンティンジェンシー予備費を充当するという
対応方針になっていたとしたら、
その具体的な内容や、予備費充当の具体的な条件などに
触れるとよいでしょう。
本記事の場合は、「AIシステム開発」を
「不確かさ」の背景にあるとしています。
PoC段階で再見積りトリガが発生したとしたら、
発覚リスク内容としてはたとえば「教師データの不足と
偏り」が生じて、追加工数・コストがかかる見積り結果に
なったことを示します。
またコンティンジェンシー予備費の充当の条件として、
充当するからには明確な成果条件が必要であり、
たとえばデータ処理の専門家を投入するなどといった
対策につなげるとリアリティが増すでしょう。
論文骨子

以上を踏まえ、論文骨子は次のようになりました。
■設問ア
1.不確かさのあるプロジェクトにおけるコストに関する要求事項の整理
1-1.プロジェクトにおける不確かさ
ソフトウェアハウスのN社
AIを利用したチャットボットを導入する計画
不確かさ:
①応答に使用する教師データの品質や所要量が開発途中で判明
②商用化前のAPIやライブラリの変更
③業務要件の途中変更(PoC結果による方向転換)
上記見解を整理の上、ステークホルダと意見交換の場を持つ
1-2.コストに関する要求事項の確認
コストの見積もりに与える影響:
①教師データの不足や誤りには、再収集・前処理工程が延び、追加工数(コスト)がかかる
②外部APIの仕様変更には実装変更・再検証が発生し緊急対応コストがかかる
③業務要件の変更には要件再整理・モデルの再設計による追加コストがかかる
ステークホルダからのコストに関する要求事項:
①(経営層・事業部門)人件費と比較して効果に見合うコストであること
②(財務部門)コストの金額、支払いタイミングが妥当であること
③(ベンダー)不確かさの高い業務範囲において採算が確保できること
■設問イ
2.計画段階で整備した予測活動の内容
2-1.予測活動の内容
PoCフェーズ、学習モデル精緻化フェーズ、本番導入フェーズに分け、
スコープを仮置きして変更余地を持たせたまま見積りを行う。
既知のリスクに関する予備費をコンティンジェンシー予備費、
未知のリスクに関する予備費をマネジメント予備費として
あらかじめ見積りに含めておく。
2-2.再見積りのタイミングを決める条件
あらかじめ設定したフェーズごとに再見積りを行う。
また、チャットボットによる回答精度が2マイルストーン連続で未達になるケース、
応答時間が5秒を超える場合を再検討トリガーとして設定
2-3.ステークホルダとの協力の内容と再見積り時のコスト差異への対応方針
ベンダーとは準委任型、成果報酬型の段階契約形態として合意
コスト差異への対応方針としての、予備費の取り扱いに付いてあらかじめ合意
■設問ウ
3.実行段階で対応した予測活動の内容
3-1.再見積りのタイミング
プロジェクト開始して2か月後、PoCフェーズにおいて再検討トリガーが発動
3-2.再見積りの結果発覚したコスト差異
教師データの不足と偏りが出て工数が増加しておりコスト差異が発生
コンティンジェンシー予備費の充当のため変更管理プロセスに沿って
財務部門や事業部門・経営層に対し上申
3-3.承認を得た差異への対応策
承認条件として、経営層からは明確な成果条件を伴う必要があるため、
教師データの前処理における精度向上のための専門家を投入
その結果、次のマイルストーンでは回答精度を達成
論文全文について
ここまででも十分考え方はお伝え出来たかと思いますが、
論文全文を参考にされたい方は有料とはなりますが
以下記事の末尾をご参照ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本記事ではプロジェクトマネージャーの午後II(論文)対策として、
令和6年問1で出題された論文の書き方を紹介しました。
最近の出題傾向にあるプロジェクトの"不確かさ"がテーマであり、
その中でもコストマネジメントにフォーカスがあたった点が
特徴的な問題でした。
また、「AIシステム開発」というこれまた頻出のモチーフも
論文に絡めることができる例を示したつもりです。
ぜひ参考にしてください。
また、他の区分・過去問の【論文の書き方】の記事については
以下リンクを参照ください。
論文の書き方 カテゴリーの記事一覧 - スタディルーム by rolerole
今後も、【論文の書き方】記事を充実して参ります。
ではそれまで。


























